オフコースとしては初の、レコード会社をまたいだ全時代からの選曲で構成された代表曲集。デジタル技術で音質を向上させている。
おまけとして1982年の日本武道館での公演の映像4曲分などを収めたDVDがついている。この公演は日本武道館で10日間連続という前人未踏の規模を誇った。その最終日6月30日の映像で、すでに脱退を決めていたオリジナルメンバー、鈴木康博が在籍する最後の姿になった。
かつてのファンにとつてはうれしい贈り物。ファンではなかったけれど、オフコース全盛時代を生きた音楽の聴き手にとっても、一時代を築いたグループを再確認するのに重宝する作品だろう。
改めて説明するまでもないだろうが、オフコースは1970年に「群衆の中で」でデビューしたニューミュージックのグループ。中心人物は小田和正と鈴木。
広く認知されたのは「さよなら」の大ヒットによるはずだ。その1979年は、ほかにさだまさしや長渕剛らニューミュージック勢が台頭。当時僕は生意気盛りの中学3年生だったから、彼らのことは、いずれも「軟弱である」と大いに批判したが、卒業の時期だったこともあり、ギターを抱えて歌本を見ながら「さよなら」をよくうたったものだった。
その後オフコースはバンドとして日々巨大化し、先述の武道館連続公演を果たし、さらに生意気な高校生になっていた僕も彼らの存在は認めざるをえなくなり、「なるほど」といいながら「僕の贈りもの」(73年)、「ワインの匂い」(75年)など初期の作品を聴き直したりした。
初期の繊細なサウンドと80年前後のバンドサウンドとの違いに大いに戸惑ったが、その戸惑いの幅の大きさが同時にオフコースのスケールの大きさでもあった。前述のように全時代からの選曲で構成されるこの作品は、彼らの多彩さを手軽に知ることができる。
再び個人的な話になるが、この作品を聴いて驚いたのは80年前後の楽曲について自分がよく覚えていることだった。また、「時に愛は」はイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」からの影響が大きいのではないかなど妙な発見もあった。
まあ、そんなことはどうでもいい。晩秋から冬にかけての風景にとてもよく似合うのがオフコースだと思うし、最近は80年代のニューミュージックの流れをくんだ若手アーティストも少なくない。この年末から来年初頭にかけてをオフコース再考の時期とするのも悪くない。
ENAKでは以前、鈴木に話を聞いたことがあるが、彼は再び小田と小田と音楽を作る機会をもつことを切望していた。小田のほうはどうなのだろうか。
なお、おまけのDVDの映像はまったくブラッシュアップされていない。残念だった。
(ENAK編集長)