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よくぞ発掘してくれました!
年末はiTunesのパーティーシャッフル任せに、のんびり、気ままに、なんとなく音楽を流して過ごした。
そんななかでふと考えた。昨年聴いた作品でいちばんのお気に入りはなんだったろう。このジャズの巨人ふたりが共演したライブ盤かもしれない。
セロニアス・モンクは独特の奏法で“孤高の”ピアニストなどと呼ばれる。また、作曲家としてもずばぬけた才能の持ち主で、彼が残した楽曲はいずれもジャズのスタンダード曲として輝きを放ち続けている。
ジョン・コルトレーンはモダンジャズを改革したサックス奏者。努力と研さんで技量を磨き、その後のサックス奏者に与えた影響は計り知れない。マイルス・デイビスと並んで今もなお“巨星”であり続ける。技量とともに人間としての器も大きくなり、“ジャズの聖人”などと呼ばれることもあった。
ともに今は亡い。
55年にマイルスバンドに起用されたコルトレーンは、しかし、薬物依存など問題を抱えていたこともあり、一時的にバンドから離れる。その間、わらじを脱いだ先がモンクの四重奏団だった。
モンクの独特の音楽と人柄に触れることでコルトレーンは音楽的にも人間的にも格段に飛躍する。
しかし、残念ながらこの間のふたりの共演は、その断片がわずかに1枚のアルバムが残されただけだった。
しかし、1993年、ファイブ・スポットというライブハウスにおける58年の演奏の実況録音盤がCDとして日の目を見た。“幻”の一端が姿を現した。だが、いかんせんこれは音が悪かった。もともと私家録音だったものなのだ。
その意味では少し、いや、かなりガッカリだった。
幻はやはり幻なのかと思っていたらこつぜんと登場したのが、このクラシックの殿堂における57年の演奏の実況録音盤だった。カーネギー・ホールに出演したさまざまな演奏家の実況録音テープが大量に保管されていることが分かり、その中のひとつがこれだったという。
モノラルだが、ファイブ・スポットの実況録音盤よりはるかに音はいい。いや、かなりいい音なのではないか。コルトレーンのサックスの音色がみずみずしいではないか。
良い音質のおかげで、なんだかふたりの“間”に通い合う何かが目に見えるかのようだ。それはたとえば緊張感。録音当時ピアニストとして絶好調だったモンク。独特の奏法が生み出す間合いは、ただでさえ周囲の空気を張りつめたものにする。リーダーだということもあり、余裕しゃくしゃくに自分のペースで音楽を構築する。牽引する。
これに対し、コルトレーンが懸命にくらいつく。モンクが繰り出す間をたくさんの音数で埋め尽くそうとする。これが後のコルトレーンの独自の奏法となる。さらに後進のサックス奏者たちが軒並み追随することになる。
斬り合い続ける真剣勝負ではなく、ふたりの卓越した音楽家同士にしか分からないような、深いところでの交流。そんなものが、とても感じられるのだ。
ジャズであり、しかも実況録音盤であり、ENAKの読者向きかどうかは分からないし、おススメするつもりもないが、大きな意味のある発掘だったな、と改めて思った次第だ。(石井健)
今回聴いたCD
ライヴ・アット・カーネギー・ホール 1957
セロニアス・モンク
&ジョン・コルトレーン
東芝EMI
TOCJ-66280
¥2,300(税込み)
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