10代最後の録音にふさわしい
17歳でデビュー。モーツァルトと同じ今月27日の誕生日で20歳になるジャズピアニストの通算5作目。表題曲はデビュー盤の冒頭を飾った「宿題」と同様の幾何学的な旋律構造をもち、いかにも松永らしい。題名どおりまさに無機質な楽想を縦横無尽に操る。これが、このピアニストの魅力のひとつだ。
ただ、無機質さに関しては
上原ひろみという好敵手が現れ、プログレシッブロックに近いビートで独自の世界を切り開き始めており、このあたりの火花の散らし方は今後興味深い。
だからというわけではないが、今回の作品の聴きどころはむしろ自作「神戸」「F・I・S・H・C・R・Y」やサド・ジョーンズの名曲「ア・チャイルド・イズ・ボーン」などで披露されるソフトタッチの演奏のほうだろう。
がむしゃらなスピード感も気持ちよいが、それよりもソフトタッチの演奏のほうに“天才少年”が青年へと成長しているあとがうかがえるからだ。ジャズという音楽は、そうした演奏家の視線の変化が如実に反映される。「ア・チャイルド・イズ・ボーン」は、デビュー作でも演奏していたので聴き比べれば、そのタッチの違いは明らか。あるいは「グリーン・ドルフィン・ストリート」の軽やかさ、締めくくりの、ソニー・ロリンズが好むようなカリプソ風の「スカイ・デ・スカイ」の明るさもいい。
松永は確実に成長しており、そのあとを堂々と聴き手に示す。まさに10代最後というのにふさわしい作品。 (石井健)