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あ、これはフュージョンだ!
いやあ、いいなあ。
もっともこの良さにハマる人はそう多くないかもしれない。つまり1970〜80年代にフュージョンを愛聴した世代に限られるかもしれない。僕はそんな世代に属するので、早速iPodに入れて車を運転しながら聴いてみたのだけど、ちょいと春めいてきた日差しも手伝って、学生時代の夏の日を思い出してしまった。
小林香織は24歳女性サックス奏者。昨年アルバム「SOLAR」でデビューし、これが2作目。妙齢の女性演奏家っていう点も、オヤジになった旧フュージョン世代にはうれしいかもしれない。
もっともこの世代、うるさ型も少なくないから、演奏技術がどうのこうのと言い出すかもしれない。小林のサックスはそんなに器用な感じは受けない。デビッド・サンボーンやトム・スコットなんかと比較してはいけない。小林の場合、ぼくとつなフレーズの一生懸命さが、むしろ気持ちよいのだ。ぼくとつだけど、いかにもいにしえのフュージョンならではのフレーズの連発がうれしいのだ。
それにうるさ型の聴き手がなんといおうと、彼女には強力な援軍がついている。すなわちバックを固める笹路正徳(キーボード)、野村義男、土方隆行(ともにギター)、日野賢二、岡沢章(ともにベース)そして泣く子もだまる村上"ポンタ"秀一(ドラムス)である。日野皓正(トランペット)も客演している。
腕っこきの担ぐみこしに乗ったお姫様のようなもので、小林はのびのびとおおらかにサックスを歌わせる。その安心しきったところが、聴き手の気持ちもよくしてくれるのである。
1曲目「キラキラ」はその名のとおり、キラキラとした音色で魅力が全開。笹路のいささかチープとも感じられるキーボードの音色がかえって80年代をほうふつさせて、このへんは計算ずくか。2曲目の「エナジー」もまた題名どおり、元気いっぱい、しかもどこまでも伸びやかなサックスの音色がいうことない。ポンタのドラムもどっしりと余裕のバッキングでお姫様を勇気づける。
この2曲ともに小林の自作だが、とてもよい。やはり自作のミドルテンポのバラード「ラヴリー・ブラッサム」も夏の夕暮れに聴いたら極上のリゾートミュージックになるだろう。というわけで、作家としての魅力もある。
チャカ・カーンのカバー「スリープ・オン・イット」では、野村が高中正義ふうのカッティングで絶妙の伴奏をし、抑制をきかせたいい味の独奏を聴かせる。日野皓正を迎えた自作曲「モーメント・オブ・ロンリネス」は「アメージング・グレース」をほうふつさせるゆったりとした旋律でスタート。日野の登場と同時に一転して緊張が走る、おもしろい2部構成。
今後、このフュージョン路線を突き進むのか、次回作ではもっといまふうの音作りに変わるのか。できれば前者であってほしいと願うのは、僕がオジサンだからか。(石井健)
今回聴いたCD
Fine
小林香織
ビクターエンタテインメント
VIZJ-5 ¥3,600
(税込、初回限定盤 DVDつき)
これまでに聴いたCD
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