ともにもはや大ベテランの域に達したジャズギター奏者で歌も達者なジョージ・ベンソンとジャズ歌手、アル・ジャロウの顔合わせで楽しい作品が登場した。
幕開けは「ブリージン」。1977年発表のベンソンのアルバムの表題曲で、彼の代表曲。そのセルフカバーで始まるなんて粋な演出だ。
「ブリージン」は70年代の当時、このアルバムのもつ独特の雰囲気は「メロウ」という言葉で表現されたが、今回のバージョンは当時の「メロウ」から色香を抜き去り、ベテラン同士だけが醸し出せるゆとりに満ちたムードが充満している。
つまりは、それがこのアルバム全体の雰囲気でもある。続く、こちらはジャロウ1983年発表の代表作の表題曲「モーニン」(有名なジャズ・メッセンジャーズの曲とは別)では、器楽的と称されるジャロウならではの、“歌”は歌わず、声で打楽器的な役割を果たしてみせる。
「トゥトゥ」は1986年発表の故マイルス・デイビスのアルバムの表題曲。このアルバムは、マイルスと“弟子”のベース奏者、マーカス・ミラーがほぼ2人で作り上げたものだったが、そのミラーがここには参加。さらにやはりマイルス門下生のピアノ奏者、ハービー・ハンコックも加わり、まさにマイルスへのささげ物という体裁になっている。
ここでのベンソンのギターは、ハンコックとミラーの伴奏に触発されたのか、一転して緊張感あふれる鋭い即興演奏を聴かせる。ハンコックの独奏も短いながらも素晴らしく、点こぐのマイルスもニヤニヤしているだろう。
マイルスとの関係でみると「フォー」という、マイルスの曲も取り上げている。マイルスがやっていたテンポに比べるととてもゆったりとして、リラックスした雰囲気になっている。
ダリル・ホールが書いてポール・ヤングが1985年に歌って全米首位を獲得したソウルフルなポップス曲「エブリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」のカバーは意表をついてうれしい。
意表をついたといえば、ポール・マッカートニーが飛び入り参加している「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー」。たまたま、隣のスタジオにいたポールが、主たる歌唱者としてうたっている。
このサム・クックが書いたリズム&ブルースの古典曲はビートルズの愛唱歌だったとみえて、ビートルズ解散後のジョン・レノンも録音を残したし、ポールも1987年にまずソ連で発売した「バック・イン・ザ・USSR」の中でカバーしている。
トニー・ベネット「デュエッツ」でも客演していたポールだが、ポールの本質に合っているということもあり、できばえはこちらのほうが断然よい。ポール自身も気持ちよさそうにR&Bふうのコブシをきかせてうたっている。それはそうだろう。ゴスペル調の編曲は、ポールが自分の作品ではやりづらい。こういう客演だからこそ楽しめるというものだ。テンポが倍になるエンディングの処理もいい。ポールらしいシャウトを聞かせる。
大物同士の顔合わせ企画作品が増えている。悪くいえば旬を過ぎたベテランたちに、企画モノに乗ることへの抵抗感がなくなったということなのだろうが、企画倒れに終わったり、貴重であるだけの作品も少なくない中、これはベテランならではの余裕が、楽しさという結果にうまくつながっている。
ミラーのほかスタンリー・クラーク(ベース)、ヴィニー・カリウタ(ドラム)ら腕利きたちがガッチリと後ろを固めていることももちろん見逃せない。
(ENAK編集長)