ENAK Interview 2004
VOL.14 アル・ジャロウ (2) |
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──シンプルな編成の伴奏により、なんというか非常にアコースティックな音になっていますね
■ジャロウ:アコースティック。うん。それにオーガニック、ナチュラル、オネスト…シンプル! バックボーカルは入っていないし、弦楽器群も管楽器群もなし。いまどき珍しいだろ? でも、この珍しさが、今の聴き手には新鮮だとは思わないかい? 今の聴き手は“音の壁”に耳が慣れている。打ち込み全盛で、いまやドラム奏者を捜すのにもひと苦労の時代にあって、この新作は、少ない言葉で多くを語る−−を実践しているとでもいおうか。つまり、小さいことは実は大きいのだ、ってことを実践しているんだ。
──
しかし、アル・ジャロウといえば、やはり、コンテンポラリージャズの旗手という印象が強いんですよね。それは、あなたが華々しいスポットライトを浴びた70年代後半の印象なんですけど。
■ジャロウ:だけど、僕は実にいろいろなことをやってきているんだよ。「ブレーキング・アウェー」(81年)を聴いた人がこの新作を聴いたら「これはアル・ジャロウじゃない」というだろうね。だけど、「ブレーキング・アウェー」の要素だって、実は入っているんだ。ビートは違うけどね、つまるところ僕は、「これが僕なんだ」と思えることだけをずっとやり続けているにすぎない。R&Bだって、ウエストサイド物語の中の歌だって、バッハだって、あらゆるものが僕の音楽の構成要素になっているんだよ。さて、ここでバッハをうたおう。(ここで延々とバッハの旋律をスキャットでうたう)
──米国の音楽界を見ますと、ノラ・ジョーンズの登場でジャズが再び見直されていますね。もっとも、ノラの音楽をジャズといいきっていいのか僕には分かりませんが。いずれにしても、オーガニックな、アコースティックな音に関心をもつ人がいるということですよね? こうした動向については、どのようなお考えをもっていますか?
■ジャロウ:ノラ! かつて僕が注目を集めたとき、だれかが、トニー・ベネットのところにいって質問したんだ。「アル・ジャロウはあなたにとって、好敵手ですか?」。さて、僕が出てきたからといって、トニーは消えてしまったかい? それはともかく、ノラはすばらしい、と、思うよ。
──
歌手として、今、のりにのっているという感じも受けますが?
■ジャロウ:そうかい? 実は2002年9月に手術を受けたんだ。背骨にずれが生じて歩けなくなってね。あれは苦しかったな。僕はこれからどうなるんだ? 車いすに座って歌えばいいのか? 松葉杖輪ついて舞台に上がるのか? 不安にさいなまれた。こうして新作の話ができるなんて、あのときは考えられもしなかった。もっとも、手術の8週間後には、もうジャズクラブ、ブルーノートで毎日2回の公演をこなしていたけどね。その後、日本でも公演した。日本の前には韓国にいった。客席に金正日総書記の姿はなかったけどね。
──
不死身ですね!
■ジャロウ:こどものころ、教会で人間の精神的な部分について学んだんだよ。自分の環境を乗り越えて生きることを神から学んだ。血と肉だけの人間以上の存在になるのだと。精神は肉体を超えるのだと、ね。 |
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後記
元気だった。もう、その一言に尽きますね。僕などは、70年代にさっそうと出てきた当時の彼の印象が鮮烈で、目の前の64歳の彼の姿に違和感さえおぼえたのですが、それ以上に、陽気なおじさんぶりには、もうびっくりでした。マシンガンのようにしゃべり、そして、ライブのようにうたう。本気でうたうのだから、聴き入ってしまう。さらに、踊り出してしまって…。人生にも音楽にも精力的で、であればこそ、彼の音楽はいつまでも鮮度を失わない。この新作は、スタンダード集ですが、てあかのついた古典曲をベテランがうたう、などというものではなく、実に新鮮な命を吹き込んでいます。 |
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