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86歳といわれてもピンとこないほどかくしゃくとしている。
「うそだと思うなら出生証明書をお見せしようか? まあ、気分は26歳といったところだがね」
ホテルの客室で、ソファーに浅く腰掛けたハンク・ジョーンズが、ニヤッと笑った。
GJTは最新エンジンを搭載したビンテージカーだ
いぶし銀の…とか、洗練された…といった表現がジャズの世界でもっとも似合うピアノ奏者。裏を返せば、ガツンと重厚な作品を残していないということにもなるのだろうけど、ハンクの魅力は、まさにそこにあるといっていい。他人の作品で実にすばらしい伴奏をつけているし、なんというかフットワークがよい。それがもっともよい形で実を結んだのが、1975年に日本人の発想によって誕生したザ・グレイト・ジャズ・トリオ(GJT)だろう。
当時のGJTは、ハンクのピアノにロン・カーターのベース、トニー・ウィリアムスのドラムという布陣だった。
そのころのハンクはあまりパッとした存在じゃなかった。だいたい時代はフュージョンが流行しモダンジャズは衰退の一途をたどっていた。フュージョンは、基本のビートをフォービートからファンクなどで用いられるリズムに置き換え、また電気楽器なども用いた、ジャズから派生した音楽だった。最近は、これもすっかり廃れてしまったけれど。ハンクのスタイルは、モダンジャズとしてみても古典的なほうに属していた。
ハンクはそうした時代、スタジオミュージシャンをしたりレビューに出演したりして糊口をしのいでいた。そのハンクに目をつけたのは、世界的にもジャズ好きな日本人ならではのけい眼だった。そのハンクにロン&トニーを組み合わせたのも、また、しかり。
ロンとトニーは60年代、マイルス・デイビスのグループに在籍した。このグループ、ジャズの最先端を突っ走った。つまり、ハンクとロン&トニーというのは、ちょっと考えつかない組み合わせだった。最新のエンジンを積んだビンテージカーのようなGJTだったが、彼らは次々と作品を生み、それらは日本のファンを中心に喝采をもって迎えられた。
ハンク以外のメンバーは交代を重ねながら、GTJは永続。そして、今回、ジョン・パティトゥッチ(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラム)という21世紀を代表する最新エンジンを搭載した新生GJTとしてアルバム「ス・ワンダフル」を発表した。
おっと、前置きが長くなってしまった。さて、「ス・ワンダフル」。
TEXT & PHOTO BY TAKESHI ISHII/石井健
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ス・ワンダフル
ザ・グレイト・ジャズ・トリオ/THE GREAT JAZZ TRIO
VRCL 18822
(CD & SACD Hybrid)
¥2,835 (tax in)
01.ス・ワンダフル
02.スウィート・ロレイン
03.モーニン
04.酒とバラの日々
05.テイク・ファイヴ
06.アイ・サレンダー・ディア
07.ナイト・トレイン
08.恋人よ我に帰れ
09.グリーン・スリーヴス
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PROFILE |
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1918年7月31日、米ミシシッピ州ヴィックスバーク生まれ。その後ミシガン州ポンティアックに移り、10代のころから地元で演奏を始める。44年にニューヨークへ出て、当時の先端ジャズだったビ・バップを吸収。47年にはオールスターによるジャズ興行だったJATPに参加。翌48年からは名歌手、エラ・フィッツジェラルドの伴奏を務めたり、ビ・バップの開祖であるチャーリー・パーカート共演したりした。
50年代はさまざまなレコーディングに参加し、59年から17年間は放送局のスタッフ演奏家としてテレビやラジオ番組の演奏にもかかわった。
76年4月、日本人のアイデアから生まれたザ・グレイト・ジャズ・トリオに参加し、以後、GJTとして多数作品を発表。
日本の大手家電メーカーのテレビCMに出演し、そこでの「ヤルモンダ!」というせりふが大いに流行したことも。 |
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公式サイト
http://www.eighty-eights.com/ |
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