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淀川長治の銀幕旅行
「天国の約束」古き良き米映画の香り漂う
この記事は産経新聞97年3月18日の夕刊に掲載されました。
1995年アメリカ映画1時間25分。カラー。時代は1933年(昭和8年)、南フィラデルフィアの田舎町の12歳の少年(ジェリー・バローン)の話。

映画の始まりから山田洋次監督新作そっくりびっくりの、懐かしの名作をずらり並べて見せる。

「トップ・ハット」「四十二番街」「紅塵」「我輩はカモである」「民衆の敵」「クリスチナ女王」「キング・コング」、そしてスタン・ローレルとオリバー・ハーディのコメディー。

この時代、私は24歳、これらの映画に夢中のころだ。「紅塵」はゲイブルとジーン・ハーロウ。「民衆の敵」はキャグニー。「クリスチナ女王」はガルボ。そして「我輩はカモである」はマルクス兄弟の超ナンセンス・コメディー。映画はこれらのシーンを矢継ぎ早に見せ、この町の新装なったラ・パロマ映画館の宣伝カーがマイクで宣伝を呼びかける場面からスタート。原題「ツー・ビッツ」(25セント)、映画館の入場料。

ところがこの映画の少年、20セントしか持っていない。それで町じゅうアルバイトして回る。大道芸人、店員、地下の掃除、おかみさんの世話。このおかみさん、60がらみなのに少年を口説きにかかる。少年びっくり。のちにこのおかみさん、首つり自殺していた。葬式シーンもある。

要するに1940年に封切ったソーントン・ワイルダー原作舞台劇の映画化「わが町」のスタイル。シナリオはヒッチの「サイコ」(60)脚本のジョセフ・ステファノのオリジナル。監督はジェームズ・フォーリー。ささやかな映画だが、少しのんびりしすぎ。

書き忘れかけたが、本当の主演はアル・パチーノ。ことし彼57歳。これが庭が好きで汚い小さな庭にベッドを持ちだして寝るのが好きな少年の祖父にふんしている。パチーノは「スケアクロウ」という名作あるも、「ゴッドファーザー」あたりからオーバー・アクト。目をぎょろりの大声。今回はほとんどセリフなしでホッとする。

この映画の老人は死んだとき、父のいない孫に25セント玉をやるため、そのコインを手に握っていた。

 (映画評論家)



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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

天国の約束

監督
ジェームズ・フォーリー

脚本
ジョセフ・ステファノ

製作総指揮
ジョセフ・ステファノ
ウィリー・ベアー
デビッド・コーダ

製作
アーサー・コーン

撮影
ファン・ルイズ・アンキア

編集
ハワード・スミス

美術
ジェーン・マスキー

衣装
クラウディア・ブラウン

音楽
カーサー・バーウェル

ナレーション
アレック・ボールドウィン

出演
アル・パチーノ
ジェリー・バローン
メアリー・エリザベス・マストラントニオ
パトリック・ボリエロ
アンディ・ロマーノ
ドナ・ミッチェル
メアリー・ルー・ロサート
ジョー・グリファジ
ジョアンナ・マーリン