「タンゴ・レッスン」タンゴのなんたるかを知るタンゴ探求
この記事は産経新聞97年10月07日の夕刊に掲載されました。
男が女になる『オルランド』(1992年)を監督したサリー・ポッターの監督・脚本・主演。今年48歳の彼女は、25歳で早くもダンス・カンパニーを設立。ダンス短編映画数本をすでに監督。かくて83年にジュリー・クリスティ主演作を一本。ついで『オルランド』。注目の才人女史である。
『タンゴ・レッスン』は、この監督自身がタンゴ・ダンスにみせられてゆく映画。これを見て、鼻につく人も多いであろう。女が四十を超して男狂いをするがごとき、その“女”のうぬぼれと愚かさ。これが、タンゴをもって描かれてゆくのだが、その甘ったらしい女(ポッター)の素顔が、タンゴを学ぶうちにタンゴのなんたるかを極めてゆく。
見ているとタンゴが間違いなく、“男”のダンスたることを教えられ、この映画でもポッターがダンスを学ぶうちに、その相手の愛欲をかいでゆく。そのタンゴ独特の愛欲が、この映画をダンス映画以上の人間ドラマへと迫らせる。主人公のこの女性は映画の監督・脚本家。そのことからこの映画も、キザなシナリオライター気取りの雰囲気から始まってゆく。
白い円形テーブル。その上にペーパー。そのペーパーにペンが走る。これが、このシナリオ作家のペンの先を思わせて、やがて彼女の瞬間のイメージ。赤、緑、黄の衣服の三女性が銃で撃たれる、その五秒間のシーンのみがカラー。あとは、すべてモノクロ。
やがて彼女、一人の男のダンサーと恋に落ちてタンゴの足どり、足踏み、その心を教えられ、相手のダンサーが映画監督希望であることをもらしたとき、この女性が映画のなんたるかを厳しく説き知らせる。映画もタンゴも魂の燃えるもの。そのお説教を聞くことよりも、この映画の見せるタンゴのステップ。これが、実は“主役”。
全編モノクロ。彼女の瞬間のイメージ、同じシーンを数回繰り返すが、これのみがカラー。この気取りをうれしがる人。そうでない人でこの“芸術”映画は左右されることだろう。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
タンゴ・レッスン
監督・脚本:
サリー・ポッター
製作:
クリストファー・シェパード
撮影:
ロビー・ミューラー
編集:
エルベ・シュネー
音楽:
サリー・ポッター他
振付:
パブロ・ベロン
衣装:
ポール・ミンター
出演:
サリー・ポッター
パブロ・ベロン
グスタボ・ナベイラ
ファビアン・サラス
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