「サバイビング・ピカソ」ピカソを抱きしめようとした!
この記事は産経新聞97年01月14日の夕刊に掲載されました。
このピカソ映画(原名・不死ピカソ)。アメリカ一九九六年作二時間五分カラー。監督が、アメリカ人だがヨーロッパ趣味の「眺めのいい部屋」「モーリス」「日の名残り」のジェームズ・アイボリー。主演が「日の名残り」「ケロッグ博士」のアンソニー・ホプキンス。撮影が英国人の「眺めのいい部屋」のトニー・ピアス=ロバーツ。すでにアメリカ映画から遠く離れてヨーロッパ臭い。
映画はあの異様な画家ピカソの私生活を見せるのだが、もちろんそこにあるのはピカソの画家エネルギー。これが圧巻。燃えて燃えてその情熱がピカソ芸術を生んでゆくそれも見せ、異様なピカソ美術を映画観客の胸に染み込ませる。女ぐるいのピカソ。女から女へのピカソ。その女の乳房に顔をつき入れたごときこの狂態から、ピカソは絵を生み絵皿を生み、子供の絵のごときその絵が、ここ映画の中に“ピカソ美術”と納得(ゝゝ)させる。
ところでこの映画、後半ずぶりと落ち込んだ。映画自身のくたびれが見ていて痛ましい。それはピカソにアンソニー・ホプキンスをどこまで似させるか、あのピカソの頭、あのピカソの夏のボウジマのランニングシャツ。何から何までピカソに似させる。演技させる。そのことで、この映画、後半クタクタ。
ピカソ七十四歳のとき、クルーゾー監督が本人自身を出してピカソ紹介映画を厳しい美術映画の感じで見せた。それやこれやでアイボリーもホプキンスもさぞや苦しんだであろうが、この映画、見て見つめて、ピカソをよくぞ映画にした。苦しんだであろうと、力いっぱい拍手してもらいたい。
撮影もヨーロッパ映画を思わせる美しさだ。とにかくホプキンスとアイボリーの映画なんだ。品がいいよ。上等だよ。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
サバイビング・ピカソ
監督:
ジェームズ・アイボリー
製作総指揮:
ドナルド・ローゼンフェルド
ポール・ブラッドリー
製作:
イズマイル・マーチャント
デイビッド・L・ウォルパー
脚本:
ルース・プローワー・ジャブバーラ
撮影:
トニー・ピアス・ロバーツ
音楽:
リチャード・ロビンス
美術:
ルシアナ・アリッヒ
衣装:
キャロル・ラムシー
編集:
アンドリュー・マーカス
出演:
アンソニー・ホプキンス
ナターシャ・マケルホーン
ジュリアン・ムーア
ジョス・アックランド
ピーター・エアー
ジェーン・ラポテア
ジョゼフ・マハー
ボブ・ペック
ダイアン・ベノーラ
ジョーン・プローライト
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