「ラリー・フリント」ハダカ雑誌でもうけた男の実伝
この記事は産経新聞97年7月22日の夕刊に掲載されました。
監督が『アマデウス』のミロシュ・フォアマン。製作が『JFK』のオリバー・ストーン。私事で申し訳ないが、好きな監督とあまり好きとはいえぬプロデューサーの作品。映画はヌードのクラブでもうけ、そのヌードスターと結婚し、ヌード雑誌でさらにもうけた実在人物ラリー・フリント(ウッディ・ハレルソン)の伝記。
『アマデウス』の豪華さと『JFK』のきわめつけニュース感覚でもって、アメリカで最高にガラが悪いといえる男を、目にしみこませる勢いで映画化した。
金もうけに手段は選ばぬ、カム・アンド・ゲット・イット。このアメリカ精神が、ラリーという男によって実現してゆく面はゆさと怖さ。ヌード、ポルノ。世間の苦言が逆に彼のポルノ誌の部数を上げてゆく。世間の苦言に対し、彼はアメリカの自由を説く。
裁判にあたっても法廷でアメリカの軍用ヘルメットをかぶり、星条旗のおしめ姿で登場。これで精神科の刑務所入り。この男、狙撃され、下半身不随に。夫婦ともにドラッグにおぼれる。
映画はこの、若く三十三歳で死んだ妻。そしてラリーのおのれのクモの巣に絡まってゆく姿を描く。監督の繊細と製作者のハードタッチ、この妙なコントラストでこの映画は、アメリカの実態を濁流さながら、二時間八分、“これを見よ”とでもいうような勢いで描いてゆく。
主役のウッディ・ハレルソンは『ナチュラル・ボーン・キラー』に出演。ラリーの妻を演じたコートニー・ラブはロック界の花形。映画でもその美しさ。ぬれきった女のヌードダンサー上がりの演技は巧み。
この映画、ポルノでしこたま金をつかんだそのなれのはてとでもいえる、妻を失ったラリー・フリントに、アメリカの、自由の国の恐怖的とも思わせる自由を知らされてゆく。とにかく、ラリー・フリントを知り、アメリカを知り、人間の弱さと間違った強さを知るこの映画。エロチックとヌード雑誌を、これだけの教訓的一大娯楽映画にしたので驚いた。
(映画評論家)
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