「メン・イン・ブラック」リズムに乗ったアメリカン・グロテスク美術ショー
この記事は産経新聞97年10月21日の夕刊に掲載されました。
これぞグロテスクショー。ストーリーは、エイリアンが地球に潜み、地球を乗っ取ろうとするスリル。あらゆる種類のエイリアンが現れてこの映画、エイリアン展覧会を思わせるが、すべてコメディー。すべて名作映画のパロディー。
『ハリィとトント』のネコと老人を思わせる老人とネコ。ディズニー・プロの『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のグロ美術…。これらをたんまり吸い込んで、映画はタップのリズムで遊んでゆく。
原作の題も『メン・イン・ブラック』。これが、地球に潜むエイリアン退治人の名称。その2人を演じるのが、軽石が渋柿に化けたごときのトミー・リー・ジョーンズとハンサム、スマート、そしてセクシーなウィル・スミス。
農夫の顔を奪って人間になりすました、凶悪エイリアンのエドガーにふんしたビンセント・ドノフリオが実にうまい。リップ・トーンふんするエイリアン退治の指導者は、バレーのモーリス・ベジャールを思わせる。
この映画は、やや玄人好みながら、だれが見てもそのおもしろさが腹にしみこむこと間違いなし。 しかし、とくにこの映画のリズム感に注意してもらいたい。全編がダンス。全編がタップ。全編がマジックショー。とくに衣装デザイン(メアリー・E・ヴァグド)、音楽(ダニエル・エルマン)、撮影(ドン・ピーターマン)、そして、このグロテスク演出のアイデアに花束をささげたい。
監督のバリー・ソネンフェルドが、実は撮影者あがりで、あの『恋人たちの予感』もこの監督が撮影したことを知ると、この映画の撮影のカッティングの呼吸、クローズアップの迫り方、ラストの呼吸も止まる急スピードの後退−と、カメラがまた映画を楽しませる。
この監督は、今年44歳。大都会であるマンハッタンの生まれ。各シーンに映画ノスタルジーをあふれさせながらのグロテスク美術に、マンハッタンの美術館を思った。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
メン・イン・ブラック
監督: バリー・ソネンフェルド脚本: エド・ソロモン 製作: ウォルター・F・パークス ローリー・マクドナルド 製作総指揮: スティーブン・スピルバーグ 撮影: ドン・ピーターマン 編集: ジム・ミラー 美術: ボー・ウェルチ 衣装: メアリー・E・ヴォグト 音楽: ダニー・エルフマン 出演: トミー・リー・ジョーンズ ウィル・スミス リンダ・フィオレンティーノ ビンセント・ドノフリオ リップ・トーン トニー・シャローブ シオバン・ファロン マイク・ナスボーム
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