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淀川長治の銀幕旅行
「ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」
この記事は産経新聞97年7月1日の夕刊に掲載されました。
スティーブン・スピルバーグ監督(49)は第一作「激突」(1972年)から“目”で驚かす映画を作りつづけた秀才。

「E・T・」(82年)をアメリカで見たときは、スクリーンに監督の名が出ただけで拍手がわいた。「ジョーズ」(75年)の試写を当時ニューヨークにいた私は是非の招待で見にでかけたが、30名席に来ていた批評家は5人のみ。

「ジョーズ」もまた“目”で驚かす。この作品で世界中がこの監督に注目した。それからの数々の作品には映画ならではの“目”の驚きが続き、スピルバーグを映画学者として見つめていたところ、次第にこの映画学者は映画商人になり今では豪商となった。

それを憎むのではなく、映画魂がソロバンをはじきだしたことに嫌気を感じたいま、「ロスト・ワールド」(97年)が「ジュラシック・パーク」以来の登場。この一作を生むまでに四年かけたこと、題材が「ロスト・ワールド」ということで、スピルバーグがおおまじめの監督で映画商人と同時に映画教育者の名をもさし上げてもいいと思うようになってきた。

紀元前の巨獣が再び現れるこの映画、実は活動写真が生まれてまもなく1909年に「ダイナソウル」というアニメで登場、24年には「ロスト・ワールド」と同名で映画になり、恐竜の巨大さと動くトリックで大好評となった。

このトリックへの自信が「キング・コング」(33年)へと発展したこの映画ならではの恐怖を、スピルバーグは映画クラシックの趣味をも加えてここに登場させたことで、あのコッポラ監督が常に過去の大作にノスタルジーを感じる映画の再現に力をそそいでいるのに似て、本人たちは映画豪商人ではなく映画教授のつもりなのだと拍手しておいた。

今度の大作も見事に驚かすのだが、クライマックスを脚本はだらだらと見せ続けたので途中、疲れをもよおすが、この映画が封切り宣伝にもいっさい伏せている大事なこと、実はこれこそがスピルバーグの映画本心ともとれ、この監督に強い拍手をおくったのだ。

白状すると、こんどの「ロスト・ワールド」はワニの子供みたいなのがいっぱい出る、あたかもピラニアのごとく人間を食いちぎるこの小さな恐怖動物を宣伝では隠した。題名こそは巨大動物を思わせるのに、スピルバーグはわざと小さな動物でアッと驚かせた。実はこのユーモアが第一の見どころで、俳優はエキストラ同然だ。  (映画評論家)



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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

ロスト・ワールド ジュラシック・パーク

監督
スティーブン・スピルバーグ

原作
マイケル・クライトン

脚色
デビッド・コープ

製作
ジェラルド・R・モーレン
コリン・ウィルソン

製作総指揮
キャスリーン・ケネディ

撮影
ヤヌス・カミンスキー

編集
マイケル・カーン

特殊視覚効果
ILM

音楽
ジョン・ウィリアムス

出演

ジェフ・ゴールドブラム

ジュリアン・ムーア

ピート・ポスルスウェイト

アーリス・ハワード

リチャード・アッテンボロー

ビンス・ボーン

バネッサ・リー・チェスター

ピーター・ストーメア

ハーベイ・ジェイソン

リチャード・シフ

トーマス・F・ダフィ