「百合の伝説 シモンとヴァリエ」美青年をめぐる禁じられた恋
この記事は産経新聞97年8月12日の夕刊に掲載されました。
オール男性映画。女優は、一人も出演していない。映画の中の女性すべて男性が演じる。
監督ジョン・グレイン、今年37歳。カナダという宗教の厳しい国で、かかるゲイ映画をよくも作ったものである。
時は、1952年から1912年にさかのぼる。カナダのケベックの別荘地。貴族の息子・ヴァリエ(ダニイ・ギルモア)が、御者の息子・シモン(ジェイソン・カデュー)と『サン・セバスチャン』の素人芝居をやる。その芝居のけいこ中に愛し合ってしまう。
ところが、もう一人の青年−というより少年のビロドー(僧侶になるべき少年)−もまた、シモンを愛していた…という“バラ族”映画のおもしろさを、この若い監督は、大まじめにアンドレ・タルコフスキー監督をちらっと思わせる野心的スタイルで演出して見せて、ますますおもしろい。
映画は、老いたシモンを、これも老年を迎えた司教のビロドー(マーセル・サボーリン)が訪ねるところから始まる。つまり一九五二年から一二年へと話はさかのぼる。
実はストーリーは、どうでもよろしい。おもしろいのは、女性も含めてすべて男性が演じ、画面にはしばしば男と男のせっぷんが繰り返し、おおっぴらに登場するところだ。
しかし、映画は決してふざけた作品ではなく、禁じられた愛のつらさを訴えている。
この映画を見た後、来日中のこの監督に会った。あなたはゲイでしょう、と聞いてみたところ、「そうです」と素直にはっきりと答え、この映画にこの若い監督が自分の本物の心をささげていることを知った。登場者の女を男で演じさせたことは、「この映画を、シェークスピアのクラシックの香りで美しく見せたかったから」と言った。
日本の活動写真初期の現代劇は女形が演じたが、外国映画が女形をかくも使った。それも今日の映画では珍しい。主役の青年が実に美しい。禁じられた恋の悲しさを涙してもらおう。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
百合の伝説 シモンとヴァリエ
監督:
ジョン・グレイソン
脚本:
ミシェル・マーク・ブシャルド
英語版脚本:
リンダ・ガボリオー
製作:
アンナ・ストラットン
ロビン・キャス
アーニー・ゲルバート
撮影:
ダニエル・ジョビン
編集:
アンドレ・コリヴュー
音楽:
マイケル・ダンナ
美術:
サンドラ・キバルタス
衣装:
リンダ・ミューア
出演:
ダニイ・ギルモア
ジェイソン・カデュー
マシュー・ファーガソン
ブレント・カーヴァー
マーセル・サボーリン
オーバート・パラッシオ
アレクサンダー・チャップマン
イアン・D・クラーク
ゲイリー・ファーマー
ロバート・ラロンデ
レミ・ジラルド
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