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淀川長治の銀幕旅行
「ライアーライアー」この映画を見ると、臆することなくうそつきになれますぞ!
この記事は産経新聞97年5月20日の夕刊に掲載されました。
近ごろの映画、やたらと長く、2時間超えて、しかもラストが延々たるスタッフ紹介。

ところが、これは短くて、いうならばサイレントごろのプログラムピクチャー。つまり、2本立て、3本立ての軽い、あっさりした一本。昔、ユニバーサル作品にこれが多かったと思ったら、この映画もユニバーサルだよ。

話はといえば、5歳の坊や(ジャスティン・クーパー。これがうまい!)、学校で父親の職業を聞かれ、「うちのパパはライアー(うそつき)」と発言。実はローヤー(弁護士)なのだけど。この父に母は愛想をつかし、男が出来て坊やを連れてボストンへ引っ越す覚悟。

ところで、この弁護士のパパを演じるのがジム・キャリー。私、この男が出るとゾーッとする。嫌いで嫌いでゾーッとする。オーバーアクトのその派手さ。目から口から鼻まで動かすよ。前作『MASK』を見てもお分かりだろう。

弁護士とはうそでショウバイするとこの映画は申す。この男、離婚裁判でも絶対に依頼人である女性を勝たせてみせる人気者。ところが、自分の家庭では妻が坊やと逃げるギリギリ一歩手前。

脚本は2人がかり。監督はトム・シャドヤック。この監督、大したことないと見たが、このイヤラシイ、オーバーアクトの役者を、父性愛のシナリオで化粧した。

ラストで、去り行く妻と坊やの乗った飛行機を追って空港に駆けつけ、飛び立つ飛行機のタラップにかけのぼり、タラップごと走らせる。離陸する飛行機にしがみつき、機体に飛び上がり、窓の外から妻子を探し、窓の一つ一つをたたく案配。機内ではしょげてガッカリの坊や。目の前、その窓にパパの顔が見えて「パパー!」。ここでハッピーエンド。

こんなバカな、こんなうそ!けれど、ここでホッとさせるこの監督の、うそいっぱいのこのシーン。カンゲキ、バンザイ!そう感じさせるところで、この映画90点。

うそも方便。うそが幸せをつかませることもありまして、アナタ、会社から帰るなりに細君に、「今夜はお前、キレイだなあ」で、はり倒されるかビール一本増えるか。ためしたまえ!

 (映画評論家)



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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

ライアー・ライアー

監督
トム・シャドヤック

脚本
ポール・ガイ
スティーブン・マザール

製作
ブライアン・グレイザー

製作総指揮
ジェームズ・D・ブルベイガー
マイケル・ボスティック

撮影
ラッセル・ボイド

編集
ドン・ジマーマン

美術
リンダ・デシーナ

衣装
ジュディ・L・ラスキン

音楽
ジョン・デプニー

出演

ジム・キャリー

ジャスティン・クーパー

モーラ・タイニー

ケリー・エルウェス

アン・ハニー

ジェニファー・ティリー

アマンダ・ドノホー