「ミクロコスモス」とびきりけったいなイギリスのアニメ
この記事は産経新聞97年9月2日の夕刊に掲載されました。
ミクロコスモスとは小宇宙。カメラがあらゆる虫に近づいて虫の生態を比べてゆく。これは、ドイツがお得意だ。フランスがかかるものをやるのは珍しい。
ところが、この映画の虫たち。イモムシ、キリギリス、クワガタ、ハチ、バッタ、カタツムリ、その他大勢を、この映画、大げさに申すとレビューの舞台のダンサーさながらに見せているようなところが、やっぱりフランスだ。
しかも運命が感じられ、虫の人生、じゃなくて“虫生”までを感じさせる。チョウが毛虫からチョウになるその生まれかた。羽根が次第に伸びて広がる。これ、まるでムーランルージュのダンサーが豪華な衣装を広げてゆく感じ。カタツムリがヌッ、ベタァとぬるぬるの体で二匹寄り添ってくっつき合うラブシーン。アリは、なぜかくも働くのであろう。そう見ているとアリが水を飲んだ。アリだってノドが乾くんだ。
そう思っているうちに、この一時間十三分のお勉強はサッと終わってしまう。朝昼晩、風、雨、そして夜の星だ。かかる中で、虫たちが生きとし生きるその運命までもが気になってくる映画。
そんなのディズニーで見飽きたよ。そう。しかし、ディズニーもドイツ映画もかかる虫のお勉強は、正しく美しく間違いなしのお勉強。ところが、このフランスは虫の運命。虫のダンス。虫の、あのクモさえが美しい。カタツムリの失楽園など見ていてドラマだ。
思うに活動写真の生まれたては、アメリカは列車を見せ、フランスは花開くそのトリックに早くもカラーを施した。この虫の映画にもそのフランスがあったのだ。
プロデューサーが俳優だったジャック・ペラン。監督、脚本、撮影、これがクロード・ニュリザニーとマリー・プレンヌーという二人組の生物学者。これらの虫の動きを見ていると、まさに前衛舞踊。やっぱりフランス作品。この撮影、なんと三年かけたって。これは、日本語字幕がつくが、それの日本語係が椎名誠さんだった。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
ミクロコスモス
監督・脚本:
クロード・ニュリザニー
マリー・プレンヌー
撮影:
クロード・ニュリザニー
マリー・プレンヌー
ユーグ・リフェル
ティエリー・マシャド
製作:
ガラテ・フィルム
ジャック・ペラン
クリストフ・バラティエ
パトリック・ランスロ
製作総指揮:
ミシェル・フォール
フィリップ・ゴティエ
アンドレ・ラザール
パトリック・ランスロ
編集:
マリー・ジョゼフ・ヨヨット
フロランス・リカール
音楽:
ブリュノ・クーレ
出演(?):
ナナホシテントウ
キアゲハ
シャクトリムシ
ミツバチ
モクメシャチホコの幼虫
カタツムリ
コガネグモ
ビロードツブアリ
マツノギョウレツケムシ
etc.
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