「世界中がアイ・ラヴ・ユー」とびきりけったいなイギリスのアニメ
この記事は産経新聞97年9月30日の夕刊に掲載されました。
『エビータ』でオペラ気取りのミュージカルを嗅(か)いだところへ、バッチリと懐かしのミュージカルをぶつけてきたこのウディ・アレン監督・脚本の映画。あきれ、見とれ、うれし涙を流してしまった。
ニューヨークは、マンハッタン。そのスケッチをそのままメロディーに乗せ、春の花、夏の緑、秋の、冬の…と四季をあふれさせる。開巻のエド・ノートンが歌う「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」から、ざっと25曲の、それもうれし懐かしのメロディーが流れる。そのメロディーが、いきで、玄人好みで、さばけていて、日本の下町の新内からかっぽれまでをも思わせる。
娘が、ケーキの上に乗った宝石を飲み込んで病院で大騒ぎ。ここで、懐かしのエディー・キャンター十八番の「メーキン・ウーピー」が、医者も患者も踊らせて、カンオケから幽霊までもがおどりでて、骨つぼの灰が床にばらまかれるや、それらも幽霊となって踊りだす。
しかも、このミュージカル。恋、恋、恋のモモイロ。べったり。ウディが恋いこがれる人妻、ジュリア・ロバーツを口説くあたりは、肩をすぼめた目の大きな鼻めがねの男のいやらしさ。
映画はさらに恋をつづって、ドリュー・バリモアの結婚間近の娘が、刑務所から仮釈放のティム・ロスにほれちまう。この凶悪漢、照れて縮みあがる。このティムの至芸。
ラストのゴールディ・ホーンとウディのダンス。これぞフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースさながらのパロディーダンス。近ごろ、恐竜に巨船に…とビックリだけの金もうけ主義にウンザリのアメリカ映画に、この久しぶり懐かしのダンス。そして、オール懐かしのメロディーのこのアメリカ映画。ここにミュージカルをお見せいたしますぞ−のはりきりを見せて、ウディが本物のアメリカをここに取り戻す。大げさでなく、近ごろ最高の大収穫。
場面、パリとなるやシュヴァリエの十八番だった「ルイーズ」のメロディーが流れる。ウディは、よく知っとるよ!
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
世界中がアイ・ラヴ・ユー
監督・脚本:
ウディ・アレン
製作総指揮:
ジーン・ドゥマニアン
製作:
ロバート・グリーンハット
撮影:
カルロ・ディパルマ
音楽:
ディック・ハイマン
美術:
サント・ロカスト
衣装:
ジェフリー・カーランド
出演:
ウディ・アレン
ゴールディ・ホーン
ジュリア・ロバーツ
エドワード・ノートン
ティム・ロス
ドリュー・バリモア
ナタリー・ポートマン
ルーカス・ハース
アラン・アルダ
ナターシャ・リオン
ギャビィ・ホフマン
デイビッド・オグデン・スティアズ
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