「ハムレット」あきるどころか見つめさせる
この記事は産経新聞97年11月04日の夕刊に掲載されました。
この映画、4時間3分。恐れることはない。さすが立派。シェークスピアに“奉仕”のケネス・ブラナー。このイギリス人の名優の自信というより溺愛に染めたこの『ハムレット』。
さすが、見つめさせる。見つめて楽しむこのイギリス古典。この長時間をもって思わず「忠臣蔵」の通しを思わせるほど、楽しませ、学ばせた。
古典とはいえ、モダン好みのケネスゆえ豪華セット。ときに鏡を使ってモダン美術に現代ファッションのしぶきを上げながらも、『ハムレット』のさわりはことごとく加えた。「生きるべきか、死ぬべきか」のクライマックスシーンをサラリとやってのけたことで、ケネスの気取りを知る者の“墓掘り”もあれば、いろいろと名場面をそろえてごちそうたっぷり。
ケネスゆえの演出をもって、母・ガートルード(ジュリー・クリスティ)に性的情感薄く、オフェリア(ケイト・ウィンスレット)に可れんさを欠いた。これも母に詰め寄る息子の悲しさ、死を選ぶオフェリアの悲恋という、あまりにも知りつくされた点をわざと流し去ったか。
俳優陣にはジョン・ギールグッドも落としはせぬぞの気の配りに安心したものの、チャールトン・ヘストン、ジャック・レモン、ロビン・ウィリアムスを加えたこのアメリカスターの協力。これはこの映画の商策とも見るべきであろうが、しかし、ちとお遊びがすぎて、アメリカをいたぶっているかの印象をさえ与えかねない。
ヘストンはもともと“シェークスピア奉仕”の一人ゆえ、あながちミスキャストとは申せぬが、ジャック・レモンにはちとあきれた。が、この配役だからこそ見たくなるか。
というわけで、この『ハムレット』、いかにも若々しい。この映画がシェークスピアの、あのセピア調の古典を今さら見せるところに、ケネスのいきぶりを悟り、カビくさくない新品『ハムレット』をもって今日の若人をひきつける。このケネスの“シェークスピア教室”に、そうかいそうかいと感じもした。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
ハムレット
監督・脚本:
ケネス・ブラナー
原作:
ウィリアム・シェークスピア
製作:
デヴィッド・バロン
撮影:
アレックス・トムソン
編集:
ニール・ファレル
音楽:
パトリック・ドイル
主題歌:
プラシド・ドミンゴ
美術:
ティム・ハーベイ
衣装:
アレックス・バーン
出演:
ケネス・ブラナー
ジュリー・クリスティ
ケイト・ウィンスレット
ジョン・ギールグッド
チャールトン・ヘストン
ジャック・レモン
ロビン・ウィリアムス
リチャード・ブライアーズ
デレク・ジャコビ
ビリー・クリスタル
リチャード・アッテンボロー
ジェラール・ドパルデュー
マイケル・マロニー
ニコラス・ファレル
ティモシー・スポール
ルーファス・スーエル
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