「イングリッシュ・ペイシェント」けんらんたる恋のメロドラマ
この記事は産経新聞97年3月25日の夕刊に掲載されました。
この稿を書いているときはまだオスカー前。ご存じこの映画、多数のオスカー部門にノミネート。もはやオスカー獲得と前評判。
砂漠と恋のこの映画から「シェルタリング・スカイ」を想像したところが大間違いだ。これぞけんらんたる恋のメロドラマ。なるほど近ごろ映画が、特にアメリカ映画がかつえていた恋の映画。「モロッコ」「武器よさらば」などそれらの恋の映画に加えて、ヘミングウェーまたはモームその他の文豪映画のたんまりねっとりの映画化が影を消した。トリックもガンプレーももはや見飽きた今の今、映画を“恋”にべったり戻したことがオスカー委員の
なまつばをゴックリさせたか。
英国人とみられる顔も崩れかけた負傷者をカナダの戦場看護婦が自分の病人と決め、彼を近くの寺に運び命懸けの看病をするうちに、この負傷兵(レイフ・ファインズ)がかすかに記憶をたどって夢うつつに語り出す。それがこの映画の本質となり、実はハンガリーの伯爵のアルマシーがなぜすごい傷を受けたかがわかってくる。
要するに美しい人妻(クリスティン・スコット=トーマス)と恋に落ち、彼女の夫がしっとのあまり小型機に妻を乗せ地上の妻の相手男めがけ突っ込んだ。九死に一生を得たその負傷兵をいまカナダ女の看護婦が看護しているが、実はこの看護婦、愛する男を死なせるという自分の運命の怖さを、この負傷兵の看護によって救われたいと祈ってのこと。
時は1938−44年。第二次世界大戦の終わりに近い。この時代こそ映画のノスタルジー。砂漠、飛行機、恋、探検隊、かくてヒロインの砂漠での死。その彼女の死体を飛行機で運ぶ愛人アルマシー。この映画この原作この脚色、泣くための映画、愛の厳しさに泣く映画。このおぜん立ての見事さにオスカー委員は拍手の手を挙げたか。共演者のすべてが映画離れ。それゆえこの砂漠の恋が映画スター抜きに見られるという安心がある。
とにかく泣きたまえ。あきれるばかりに泣きましょう。監督のミンゲラは劇作家。2時間42分、よくぞ引っ張りましたぞ。原題は「英国人の患者」。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
イングリッシュ・ペイシェント
監督・脚本:
アンソニー・ミンゲラ
原作:
マイケル・オンダーチェ
製作総指揮:
ボブ・ウェインステイン
ハーベイ・ウェインステイン
スコット・グリーンステイン
製作:
ソウル・ゼインツ
撮影:
ジョン・シール
編集:
ウォルター・マーチ
衣装:
アン・ロス
音楽:
ガブリエル・ヤール
出演:
レイフ・ファインズ
ジュリエット・ビノシュ
ウィレム・デフォー
クリスティン・スコット=トーマス
コリン・フォース
ナヴィーン・アンドリュース
ジュリアン・ワドハム
ユルゲン・プロホノフ
ケビン・ホエイトリー
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