「八日目」5月のシュークリームのような映画だが…
この記事は産経新聞97年4月15日の夕刊に掲載されました。
ベルギーの「トト・ザ・ヒーロー」(1991)のジャコ・ヴァン・ドルマル監督の5年ぶりの作品。会社では成功者だが妻子に逃げられたアリー(ダニエル・オートゥイユ)が自殺するつもりで車を暴走させ、黒犬をひき殺し車から飛び出すと、そこに一人の男が立っていた。謝ると母の家に来てくれと言い、連れ立ってそこに行くと母はとっくに死んでいた。
この男ジョルジュ(パスカル・デュケンヌ)、実はダウン症の青年で施設にいた。2人はそこを飛び出して野原で寝転び、空を見上げ草原の緑を見つめてすっかり仲良しになった。
この映画、その友情のさわやかさが5月のシュークリームの舌触りを感じさせるが、パスカルが実は本当のダウン症と知ると、映画を楽しむことに後ろめたい気にもなる。だが、パスカルでこの映画はすばらしく、またパスカルは他の映画にも出ている演技経験者。出ていることがうれしいという感じが「八日目」にもあふれ、パスカルの唇、パスカルの目、パスカルの鼻、その童顔が映画を楽しくした。
相手のアリーにふんしたダニエルは「王妃マルゴ」(93)にも出ているフランス映画のスター。この玄人と素人の共演が花開く美しさをみせたのは、この映画が掛け値なしの本物の愛を見せようとし、ジョルジュのしがみつくがごときアリーへの愛が、あたかもホモのオリジナルをここに説くかのごとき執念で描かれている。ただひとつワンシーン、このジョルジュを女とセックスさせるシーンを加えたそこが浮き上がり、この映画最大の傷となっている。
ベルギー、フランス合作の一時間五十八分。知的障害の青年を映画の中でこれくらいかわいく、愛しく、美しく見せた演出タッチに感心してしまう。しかしこの“愛”が散るラストはつらい。
八日目とは神がいろんなものを作り、八日目にジョルジュを作ったという意味。フランスの原題も「八日目」。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
八日目
監督・脚本:
ジャコ・ヴァン・ドルマル
製作:
フィリップ・ゴドー
撮影:
ワルテル・ヴァンデン・エンデ
編集:
スザナ・ロスペール
美術:
ユベール・プイユ
衣装:
ヤン・タクス
音楽:
ピエール・ヴァン・ドルマル
出演:
アリー
ダニエル・オートゥイユ
ジュリー(アリーの妻)
ミウ・ミウ
ジュリーの母
エレーヌ・ルーセル
アリス(アリーの長女)
アリス・ヴァン・ドルマル
ジュリエット(アリーの二女)
ジュリエット・ヴァン・ドルマル
ジョルジュ
パスカル・デュケンヌ
ジョルジュの母
イザベル・サドワイヤン
ファビエンヌ(ジョルジュの姉)
ファビエンヌ・ロリオー
ファビエンヌの夫
ディディエ・ドゥ・ネック
ナタリー
シェル・マエ
ルイス・マリアーノ
ラズロ・ハルマティ
※アリーの娘を演じるアリスとジュリエットは、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の実子。
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