「クルーシブル」17世紀アメリカの魔女狩り映画
この記事は産経新聞97年4月1日の夕刊に掲載されました。
心して見るべき映画。アーサー・ミラーの戯曲映画化、というよりも17世紀アメリカ、この未開のアメリカが新天地の厳しさから邪教とみなす宗教の弾圧をおこなった。この隠れ宗教の信者探りを“魔女狩り”と称した。デンマークのカール・ドライエル監督が「怒りの日」(1943年)でその恐怖を描いたのをはじめ、この恐怖の裁判劇、というよりも魔女狩りは何作品も映画になった。
ここにまたもアーサー・ミラーのトニー賞作(1953年作)「クルーシブル」がアメリカのデイビッド・V・ピッカーの製作で映画化。協力製作者にアーサー・ミラーの長男の名が加えられている。要するにアーサー・ミラーの代表戯曲。彼の「セールスマンの死」「みんな我が子」「橋からの眺め」「荒馬と女」…まだまだ彼の作は映画化されてはいるが、この「クルーシブル」は特別の名をもって呼べるミラーの問題作。シニョレとモンタンのあの「サレムの魔女」も魔女狩り映画化。
とにかくこの作品の示すものがアメリカの赤狩りの
しめつけで、これは注目のアメリカ映画といえる。ハリウッドの赤狩りはチャップリンをアメリカから追放するまでに手を伸ばし、先年来日のエリア・カザン監督などは赤狩りにしめつけられて仲間を裏切ったことで、一時はオール・ボイコットを受けた。
今度の映画は舞台監督ニコラス・ハイトナーが当たっているが、彼は「ミス・サイゴン」の舞台演出家だ。しかしこれをみても、ハリウッドの監督がいかにこの作品の監督を逃げたかがわかる気がする。主演者は「マイ・レフトフット」のダニエル・デイ・ルイス、「シザーハンズ」のウィノナ・ライダー、これにジョーン・アレン、ポール・スコフィールドと渋い。
しかし今、このアーサー・ミラーを持ち出した勇気の割には映画演出は生ぬるく、魔女狩りの恐怖の肌寒さがない。ドライエル監督の「怒りの日」は老女を縛りつけ、足元から火を燃やし、老女が叫び声あげるその魔女狩りの厳しさが恐ろしかった。舞台監督ハイトナーの映画向きでない性格がこの問題作を弱くしている。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
クルーシブル
監督:
ニコラス・ハイトナー
脚本:
アーサー・ミラー
製作:
ロバート・A・ミラー
デイビッド・V・ピッカー
撮影:
アンドリュー・ダン
編集:
タリク・アンワール
衣装:
ボブ・クロウリー
音楽:
ジョージ・フェントン
出演:
ダニエル・デイ・ルイス
ウィノナ・ライダー
ジョーン・アレン
ポール・スコフィールド
ブルース・デイビソン
ロブ・キャンベル
ジェフリー・ジョーンズ
ピーター・ボウガン
キャロン・グレイブス
フランセス・コンロイ
ジョージ・ゲインズ
レイチェル・ベラ
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