「キャリア・ガールズ」あきれるばかりの女の映画
この記事は産経新聞97年7月15日の夕刊に掲載されました。
イギリス映画『秘密と嘘』(1996年)のマイク・リー監督(54歳)の作品は、30歳の女たちの物語。アメリカ映画に女を描く監督が今はいなくなった。フランス映画にも、女が肌にしみさせる感じで迫る映画が見られなくなった。ところが、これはまさに「女」が両手両足でつかみ抱きしめてくれるがごとき、あきれるばかりの女の映画。
6年ぶりにアニー(リンダ・ステッドマン)は、学友ハンナ(カトリン・カートリッジ)に会いに汽車でロンドン北部のフラットへ。ハンナは口が悪く、言いたいことをペラペラ。以前にアニーのただれたほおを見て、「チーズおろしとタンゴを踊った肌だね」と言ってアニーを泣かせた。しかし、六年ぶりの二人は抱き合って懐かしげに涙を見せた。週末をハンナとすごすのだ。同じ部屋の旧友クレア(ケイト・バイアーズ)。3人の望みは、いい男とセックスができるかどうかだった。そしてブロンテの『嵐が丘』の本をさすって占う妙な占いを信じていた。
アニーは、思い出の男を訪ねるが、その男がすっかり彼女たちを忘れていることに笑いころげる。以前、自分たちの下宿に舞い込んできた太っちょのリッキー(マーク・ベントン)が、今はどうしているのかと彼のいるという海辺の近くの家を訪ねるが、これが留守。しかし、表にいかれた太った中年男が。ああ、この男がリッキー。けれど、リッキーは彼女と知らないで追っ払う。映画はこの3人、とくにアニーとハンナの底抜けに明るい生き方を描き、リー監督がゲイではないのかと疑うほどの女の香り。いや、女の“肌臭さ”を画面にあふれさせる。また、イギリス女のコワサとまでいいたい、アニーのそのおしゃべりに見とれきってしまうのだ。
キャリア・ガールズ。すなわち女たちの踏んできた今までの人生。最近これほど女を見せた名作はなく、このイギリス映画の底力にはほとほと感心しきってしまう。そしてここに見つめたキャリア(彼女たちの歩んできた道)の、わびしさ、悲しさ、そして憎さ!
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
キャリア・ガールズ
監督・脚本:
マイク・リー
製作:
サイモン・チャニング=ウィリアムズ
撮影:
ディック・ポープ
編集:
ロビン・セールズ
音楽:
マリアンヌ・ジャン=バチスト
トニー・レミー
ザ・キュアー
美術:
イヴ・スチュアート
出演:
リンダ・ステッドマン
カトリン・カートリッジ
ケイト・バイアーズ
マーク・ベントン
アンディー・サーキス
マーゴ・スタンリー
マイケル・ヒーリー
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