「ベント/堕ちた饗宴」舞台でヒットした注目の異色作品
この記事は産経新聞97年9月16日の夕刊に掲載されました。
「ベント」とは同性愛。これを八年ほど前、ニューヨークのブロードウェイで私は見た。第一幕が上がるなり中央の家から男が全裸で前もまる出しで狂ったように逃げ去った。びっくりした。男のあそこ、はっきりまる出し。直後、ふたりのナチの兵隊が何かを探りにくる。すぐに気が付いた。ヒトラーが同性愛者を銃殺の厳命。
ミック・ジャガーがゲイ・クラブのドラッグ・クイーン、グレタを演じ、哀愁を帯びた歌を披露している
芝居はふたりの男がとらえられ重労働を命じられ、休み時間三分。このとき男と男は離れて立ったまま手も握れぬどころか顔を向きあわせてもいけない。ふたりは直立したまま小声で(愛)を、それも片方が(好きです)、片方が(アリガトウ)。かかる会話これがこの芝居のクライマックスを盛り上げ私が見たときは片方がリチャード・ギアだった。見事な舞台だった。超満員だった。
これが映画化されてショーン・マサイアス監督、マーティン・シャーマン脚色。どちらも演劇のふたり。映画化は非常にむつかしい。芝居はシンボリックで様式を貫いているが映画となるとリアリズムが強要される。
それでこの監督はこの脚色。必死に映画にせんとしたその苦心をこの(映画)に見て感心したが、この作品の骨は同性愛の(愛)をかくも苦しまねばならぬかを訴えた原作脚本者でもあるマーティンの同性愛への悲痛をつかんだ。
とらえられた男ふたりの手のふれぬ立ったままの愛の、恋の、その苦しいばかりのラブ・シーンにこの(愛)の禁色に怒りさえ感じる同性愛への
かばいかたが胸を刺す。
映画は舞台でなく映画というのでシナリオがいらざるシーンをいろいろ加え、苦しいふたりが立ったままの愛のコトバそれも片方のみが愛のコトバをやっとささやくクライマックスが芝居ほどにはきびしくは出ていない。
このふたり、映画はクライブ・オーウェンとロテール・ブリュトー。どちらも映画では未知。それだけに安心して見られもしたが、かかる題材を映画にした監督にあってあんたも同性愛者かと聞くとイエースと一言のうろたえもなく私に答えたよ。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
ベント
監督:
ショーン・マサイアス
脚本:
マーティン・シャーマン
製作:
マイケル・ソリンジャー
ディキシー・
製作総指揮:
サラ・ラドクリフ
ヒサミ・クロイワ
撮影:
ヨルゴス・アルバニティス
編集:
イザベル・ロレント
音楽:
フィリップ・グラス
美術:
スティーブン・ブリムソン・ルイス
衣装:
スチュアート・ミーチャム
出演:
クライブ・オーウェン
ロテール・ブリュトー
ミック・ジャガー
ブライアン・ウェバー
イアン・マッケラン
ニコライ・ワルドー
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