「バスキア」グラフィック・アーティストの生き方
この記事は産経新聞97年5月13日の夕刊に掲載されました。
バスキア(ジャン=ミシェル・バスキア)とは、この映画の主人公である黒人画家の名。演じるのは、ブロードウェーの無名俳優、ジェフリー・ライト。ふっくらと太った童顔、特に笑顔がかわいらしいという、どう見てもシャープなシュール美術画家の本人には見えぬところがかえっていい。
俗にニューヨークのグラフィックアートといわれる絵は、たとえばゴミ袋とか車のタイヤなどの変な絵、これが美術かと思わせて笑ってしまいかねぬこの絵を、その道の画家、バスキアをもって説明してゆく。
この監督のジュリアン・シュナーベルは、これが監督は初めてというが、なるほど映画の作りはやや不良。けれど、この監督本人が画家あがりゆえ、アートへの理解は克明に身にしみる。
同時に黒人(プエルトリカン)青年のニューヨークの生き方に、この映画はニューヨーク人種の一面をも見せて、白人黒人の差別なく、生きてプラスする者への尊敬を見せてゆく。
映画はこれまでレンブラントをはじめ、ゴッホ、ピカソと見せてきたが、今度のグラフィック・アートとでもいいたい画風の作家のものは、アンディ・ウォーホル殺しのスリルを見せたものがあったくらいで、この種の画家の絵を追究する映画は初めてだ。
『バスキア』は、なぜこのようなアートを生むかという、画家へのこの監督の探究を重ねる。監督が画家ゆえにバスキアの画風への尊敬をも加えている、この映画のバスキアへの厳しい追究を見るにつけ、日本の写楽映画のミスがくやしい。
この映画にはアンディ・ウォーホル(デビッド・ボウイ)はじめ、デニス・ホッパー、ゲイリー・オールドマン、クリストファー・ウォーケン、大きくなったテイタム・オニールらが 勢ぞろいする。
カメラ(ロン・フォーチュナトー)のドキュメント・タッチがニューヨークのムードを巧みに出し、主役のジェフリー・ライトとウォーホルにふんしたデビッド・ボウイが優れている。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
バスキア
監督・脚本:
ジョリアン・シュナーベル
原作:
レヒ・マジュースキー
製作:
ジョン・キリク
ライディ・オストロー
ジョニー・サイヴァッソン
製作総指揮:
ピーター・ブラント
ミチヨ・ヨシザキ
ジョセフ・アレン
撮影:
ロン・フォーチュナトー
編集:
マイケル・ベレンボーム
美術:
ダン・リー
衣装:
ジョン・ダン
音楽:
ジョン・ケイル
出演:
ジェフリー・ライト
デビッド・ボウイ
ゲイリー・オールドマン
デニス・ホッパー
クリストファー・ウォーケン
ウィレム・デフォー
テータム・オニール
コートニー・ラブ
ブライアン・ライト
レナード・ジャクソン
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