「ある貴婦人の肖像」貪欲さに魅せられる・女・のロマン悲恋
この記事は産経新聞97年1月21日の夕刊に掲載されました。
この作家のものにはウィリアム・ワイラー監督の「女相続人」(四九年)がある。富豪の娘が男にだまされる。その女がラストで男と再会。そして男を捨て切る悲劇。この作者は男のくせに、よほど“女”を知り尽くしている小説を書く。
今度も女の香りムンムン。しかも監督がジェーン・カンピオン。「エンジェル・アット・マイ・テーブル」(九〇年)から「ピアノ・レッスン」(九三年)まで“女”を描いて天下を取った秀才(四十一歳)。
この物語、美しき主人公を求めてアメリカから彼女を追っかけてくるその男たちの愛よりも、自由を求めたい女の焦り。この十九世紀の英国貴族階級の華麗なるエリートとエレガンスをもって描いたこの作品に、女性ファンはさぞかし見とれきることであろう。
また主役の美人女が、私生活ではトム・クルーズの細君のニコール・キッドマン。その彼女をここにかかる美女で見ることの驚き。 そしてこの原作があたかも尾崎紅葉の「金色夜叉」(一八九七年)のころというこの小説自身の“時代色”。女性はひとり残らずこの映画に酔いたまえ。男性はこの“女”の貪欲に、女はコワイーと叫ぶがよい。
イギリス映画、一九九六年。カラー。二時間二十五分。
ひそかに思うにこの原作者のヘンリー・ジェイムズはオカマじゃなかったかと思うほど。あまりにも女臭い。あまりにも女臭いよ。
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
ある貴婦人の肖像
THE PORTRAIT OF A LADY
監督:
ジェーン・カンピオン
製作:
モンティ・モンゴメリー
スティーヴ・ゴリン
原作:
ヘンリー・ジェイムズ
脚本:
ローラ・ジョーンズ
撮影:
スチュアート・ドライバラ
編集:
ヴェロニカ・ジネット
美術・衣装:
ジャネット・パターソン
音楽:
ヴォイチェフ・キラール
出演:
ニコール・キッドマン
ジョン・マルコヴィッチ
ヴィッゴ・モーテンセン
バーバラ・ハーシー
マーティン・ドノヴァン
メアリー・ルイーズ・パーカー
シェリー・デュヴァル
シェリー・ウィンタース
ヴァレンティナ・チェルヴィ
ジョン・ギールグッド
クリスチャン・ベイル
リチャード・E・グラント
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