「真実の行方」
この記事は産経新聞96年10月08日の夕刊に掲載されました。
アメリカ映画1996年作。原名「PRIMAL FEAR」(恐怖の実体)、2時間11分。テレビ上がりのグレゴリー・ホブリット監督第一作。
司教が惨殺された。その場から逃げた血を浴びた少年(エドワード・ノートン)が殺人犯として上がる。少年といっても19歳。しかしその顔は少年のよう。これを弁護士マーティン(リチャード・ギア)が無罪と信じ、無償で弁護を申し出る。この裁判の担当検事ジャネット(ローラ・リニー)は少年を第一級殺人罪として告訴する。ジャネットはマーティンの恋人だった女性。
ストーリーはベストセラーの映画化。映画通ならこの裁判劇の結果をただちに見破るだろう。それほど推理の劇的仕組みは単純なのに、この映画、見事に長時間を見せ終わらせる。
一つはこの監督がテレビ上がりで見せ方が親切でわかりよく、また原作者のベストセラーをねらった商魂が映画では好配役で飽きさせない。その第一のねらいが、司教が少年に命じた意外なセックスプレー。そのビデオも映画の画面に見せる。ひそかに司教が秘密の楽しみに隠し撮っていたビデオ。これがこの少年の怒りの殺しになったのか。映画はこのセックスをにおわせて進むので飽きさせぬ。
しかし話が単純なので無罪か有罪かの恐怖は弱く、このストーリーを主役のリチャード・ギアと舞台上がりの少年俳優のエドワード・ノートンの名演技で第一級の裁判劇に盛り上げてゆく。
この少年、そして彼を取り巻く大人たち、これはウィリアム・ワイラー監督の「この三人」の再映画化「噂の二人」を思わせるほどこの少年がうまく、リチャード・ギアも彼初めての“男くささ”を見せた。「アメリカン・ジゴロ」から「八月の狂詩曲」とギアは優しい美青年役。ところがこれで初めて監督とキャメラ(マイケル・チャップマン)がギアの男らしさを見せた。
そしてラスト。ここでこの映画は驚かせる。少年のその一瞬。そしてギアの弁護士と検事、この2人の一瞬の美しいラブシーン。
(映画評論家)