「ピーター・グリーナウェイの枕草子」
この記事は産経新聞96年12月17日の夕刊に掲載されました。
これは封切りは来春4月になるだろうが、飛び上がる思いで今の今見てきた。
グリーナウェイといえば「プロスペローの本」(91年)を見たいため、そのロンドン封切りの初日に駆けつけたくらい。「建築家の腹」(87年)は皆目わからなかったのに見ていて酔った。わかったというより冷めて酔ったのが「英国式庭園殺人事件」(82年)。わかっておもしろく見つめたのが「コックと泥棒、その妻と愛人」(89年)、そしてずっと後に「ベイビー・オブ・マコン」(93年)もいやらしいくらい美しかった。
ところが今度は清少納言の「枕草子」、平安朝の作、これを映画にした。原題は直訳「ザ・ピロー・ブック」(96年)。かくてこの「ザ・ピロー・ブック」はさらに激しく迫るグリーナウェイ。
かつてマン・レイという映像詩人がいた。そしてご存じのジャン・コクトー、それからクレールの初期。これらは映画を美術写真とした上でシュールの衣装をもって動く映像の詩をうたった。そして今、かたくなにシュールの映像美術に溺れているグリーナウェイのこの「枕草子」は、彼が愛し彼が酔い彼が慰んだジャポネーズ、これを彼の思いのままに描き抜く。
ときにチャイナとなりホンコンが香り、映画は日本語中国語交じりで「枕草子」どころでない。いつものナイマンの音楽をも外し、ナンミョウホウレンゲッキョーめいた男性濁音から始まる。
この映画は日本の筆、日本の文字、日本のからだの皮膚、それらをなめ回し、親が筆をもってべったりと幼児の額に二文字三文字を書くその“筆”、これがこの映画の主役。八雲の耳なし芳一があこがれて使われるほか“男”の全裸が暇なく現れ、男と男の男色シーンをも入れて三島文学をまねたがごときムードも加える。この映画、その題名を「ふでのあと」とでも洒落るべきだった。
要するにこの監督の麻薬。酔いたまえ。盆栽も出る、若い力士の全裸も出る。衣装はワダ・エミ。俳優ヴィヴィアン・ウー、緒形拳、吉田日出子その他グリーナウェイごのみ、おもしろい!
(映画評論家)
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平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。
ピーター・グリーナウェイの枕草子
THE PILLOW BOOK
監督・脚本:
ピーター・グリーナウェイ
製作:
キース・カサンダー
原作:
清少納言
衣装:
ワダ・エミ
衣装デザイン:
たつのこうじ
撮影:
サッシャ・ヴィエルニー
編集:
クリス・ワイアット
THE PILLOW BOOK
監督・脚本:
ピーター・グリーナウェイ
製作:
キース・カサンダー
原作:
清少納言
衣装:
ワダ・エミ
衣装デザイン:
たつのこうじ
撮影:
サッシャ・ヴィエルニー
編集:
クリス・ワイアット
出演:
ヴィヴィアン・ウー
ユアン・マクレガー
緒形 拳
吉田日出子
ジュディ・オング
笈田ヨシ
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