「ノートルダムの鐘」顔、表情、愛の美しさにみとれる
この記事は産経新聞96年8月6日の夕刊に掲載されました。
ディズニーは1966年12月15日、65歳で亡くなった。その長篇アニメの「ピノキオ」「バンビ」「ピーター・パン」「ダンボ」、特に名作ベストワンの「白雪姫」と世界中を驚かせたのに、その死後アニメ長篇は陰りをみせ、「美女と野獣」はそれでも恋の美しさで持たせたが、「ライオン・キング」のひどさ。あれはギャング映画だ。ディズニー生存中なら封切りを止めたであろう。
それに登場者の顔が荒っぽくなった。「ポカホンタス」のインディアン娘の鼻の大きさ。がっくりだ。ところがスタッフ一同やっと目覚めたか、近作(1996)「ノートルダムの鐘」の顔のすべてが実によろしく、特にジプシー娘エスメラルダの顔の美しさは見とれるばかり。
すでに知られたユーゴー若き日の小説。明治末にこれを尾崎紅葉が「鐘楼守」として訳本を出し、1923年(ロン・チャニーとパツィ・ルス・ミラー)、1939年(チャールズ・ロートンとモーリン・オハラ)、1956年(アンソニー・クィンとジナ・ロロブリジダ)と映画化されている。
ディズニー・アニメはこの原作のストーリーを整理し、鐘つき堂のぶ男とジプシー娘の2人の愛を中心に、「美女と野獣」さながらに哀れ不気味な醜男と美女のジプシー娘の“愛”で美しくまとめた。
見上げるノートルダムの塔上、地上の群衆、その動きも面白く、塔の飾り彫刻のおしゃべり、また憎い裁判官、その善悪乱れての騒ぎもが、これすべてオペレッタ・スタイルで“音楽劇”の面白さで見せた。いずれブロードウェイでミュージカルになるに違いない。日本語版も劇団四季の手で完成されたが、英語版はカジモドをトム・ハルス(あの「アマデウス」の)、エスメラルダをデミ・ムーア(あの「スカーレット・レター」の)が声を入れた。
とにかく「ポカホンタス」で題材のよさをぶち壊した不名誉を、「ノートルダムの鐘」が見事ばん回いたしました。(1996年作。1時間30分)
(映画評論家)