「KYOKO」アメリカン・スタイルの巧み
この記事は産経新聞96年03月26日の夕刊に掲載されました。
題名もサッパリ。アメリカ式。ロジャー・コーマンという古いプロデューサーが村上龍監督(原作)に協力。コッポラもスコシージもコーマンからスタート。
さてこれは1995年度の日本・アメリカ合作のカラー、1時間40分。この映画、道を通る人に呼びかけて見てご覧よと手招きしたいほどのカンペキの娯楽映画。ストーリーは幼女時代にG・Iにダンスを習ったKYOKO。いま21歳。この娘がその兵隊に逢いたい、お礼が言いたい、一緒にダンスを踊りたいで、この娘トラック・ドライバーで稼いだお金で思う一念、ひとりでアメリカへ。
ストーリーはパチンコのタマがコロコロと目的のアナへ落ちてゆくごとくウソ八百。けれど映画はこのウソ八百をいかに見せるかがひと勝負。私は小説家が映画を作ることにイヤ味を感じて、この村上龍さんのもケギライして一本も見ていなかった。しかしこれを初めて見てバンザイを叫んだよ。
おハナシはバカみたい。けれど監督は映画をしっくり掴んで、アメリカ映画のドリィーム・カム・ツルゥ式に(愛)のまごころが思いを貫くという楽しい映画になっている。
驚くべきは、監督と併せてこの主演の女の子、高岡早紀ことし23歳。一昨年の「忠臣蔵外伝・四谷怪談」これにも主演していたが、アレとコレが同人かと思えるくらい今度はすばらしい。ストーリーの娘はアメリカのグッド・ストーリーの勇敢娘(古きアメリカ娘タイプ)、しかしニッポン人のこの娘がカンペキにそれを演じ、この映画の中で踊るルンバ、これをイジケルことなく見事に、しかも西洋人いっぱいの中で、教えてあげると言って踊ってみせた。
これは勇気よりも芸ごとの心掛け。そしてこの映画、ニューヨークからマイアミ、見事ロードムービー・スタイルをもあわせて楽しませたが、初めのほうでこの娘ひとりでバワリィのホテルに泊まるとはちょいと怖すぎた。
しかし日本ちかごろ最高のでき。アメリカで作ってアメリカでダンスを見せて、それが一切きざでなかったこの映画の上出来に心から拍手!
(映画評論家)