「彼女たちの関係」久しぶりに女の毒を嗅ぐ、うれしいフランス映画
この記事は産経新聞96年09月03日の夕刊に掲載されました。
「彼女たちの関係」 見ているうちにこの映画、女の手で作られたと悟る。監督名を読むとやっぱりディアーヌ・キュリス。女優あがりの48歳。女のにおいプンプン。
映画は谷崎潤一郎作品を思わせる。モダン画家アリス(アンヌ・パリロー)にはボクサー志望の恋人フランク(パトリック・オリニャック)がいた。2人はアツアツ。そこへひょっこりアリスの姉エルザ(ベアトリス・ダル)が訪ねてくる。エルザはこの2人のセックスものぞくし、ことあるごとに妹を痛めつけるが、この姉妹どうやらレズビアン。姉の嫌がらせの怖さ、その毒の裏に妹への恋が感じ取れ、愛という厳しさでこの怖い姉をも映画はかばう。
ありきたりのストーリーで甘い。しかしこのフランス映画、そのフランスの底力を見せた。
姉がうまい。姉の顔に学校のいやな級長の冷酷さが感じ取れ、この姉の演技がこの映画を大人の映画にした。脚本もこの監督、そしてこれでもかと女の弱さ、怖さを押しつける。姉が妹の恋人を奪ったうえに、妹の両手を縛ってこの恋人とセックスするうめき声を妹に聞かす。この姉妹、レズビアンに近いこともわかってくる。
この映画、男がバカみたい。筋肉豊かな若者で女の夜の相手にはもってこい。けれど自分の恋人の姉に誘われて断れぬあたりが、この映画、もすこし大人にならないと困る。テネシー・ウィリアムズくらいの描き方、もっと怖く谷崎文学に迫るべきだった。
しかし最近の、セックスだけが見せ場になってきたふぬけたフランス映画の中では、やっとフランス映画だといううれしさ。とにかく姉が演技を見せた。姉のマスク、目、笑い、唇、このすべてが女の監督、同じ彼女のその脚本でいやらしさ、怖さを出した。ありふれた脚本ながら残酷さは最近最高の描写。近ごろ多くの凡作とアクションものに疲れた観客は、この映画で目を覚まさせるといい。
音楽マイケル・ナイマン。1994年作。原題「熱烈に」。
(映画評論家)