「絵の中のぼくの村」この夏もっとも美しい少年映画
この記事は産経新聞96年7月2日の夕刊に掲載されました。
この美しい映画に見とれきる。見たあとあと主役ふたりの双子の松山兄弟の顔が目にしみこんで、私の目の前で笑ってくれた。
最高の出来栄えはタイトル最初の黒バック。画面一面マックロ。遠く向こうに白い一点。何であろうと見るうちに、その一点が迫ってきてトンネルの出口。いいぞと力いっぱい心のうちで拍手。
題名「絵の中のぼくの村」。まさにこのとおり清水良雄のキャメラが日本一の田舎の美しさを抱き締めた。何百回と見た少年映画の中で、この映画は最も美しい。題名の「絵の中…」にこだわったわけか、実に田舎の画面が美しい。水の美しさ。川の底の美しさ。あきれるばかり。そしてこのキャメラの中で主役たち(人間)の生活が語られてゆく。語られてゆくと申したのは、どうもこの脚本、この原作、子供の心と目で描かれているからだ。
3人の老女とホラ貝は不要。この老女とホラ貝が西洋のおとぎ話を気取って天才監督東陽一の無邪気さで楽しませるが不要。少年ふたり、小学2年生、そして四国の高知、これがこれくらい画面にしみこんだ映画は最近見たことがない。川の水の美しさ。ウナギ取り。そのウナギを焼いたおいしそうな(?)姿までがうれしい。
そのこまやかな東監督なのに、この映画の中の大人たちは、すべて配役はいいのだがふたりの子供の母(原田美枝子)以外は大人になっていない。監督も原作者もが四国の田舎とこの少年ふたりにほれ込んでしまったのか。センジという汚い哀れな小学同級生(田宮賢太朗)が登場すると、鉛筆とゴム消しみたいであまりにもスタイルすぎた。
大人で見とれたのは、母が村の大人の集まりに酒を勧められるシーン、それと父(長塚京三)があぐらをかいて、やがて寝そべって本を読みかけるシーンのおとなのにおい。
ラストでこの少年ふたり、原作者田島征三と征彦の両氏がヒゲの生えた大人になって画面に出てくるととてもうれしくなった。これはこの少年映画に思わず見とれていたからであろう。1996年作カラー、1時間52分。
(映画評論家)