ケロッグ博士
この記事は産経新聞96年09月17日の夕刊に掲載されました。
笑って転げ回る映画。その美しさに見とれる映画。このスケベ映画にあきれる映画。これほど監督が遊んだ映画も最近珍しい。
1907年という時代にミシガンにあった健康病院。コーンフレークを発明した実在のケロッグ博士の伝記。伝記映画といえばあくびが出るが、これは見とれあきれてヨコバラが痛くなる。 この病院は健康のため、まず第一が禁欲。次いで菜食主義。ここに入院すると毎日カンチョウでウンコを調べる。毎日電気ショックをかけて全身を揺さぶらせる。
ここに若き夫婦(マシュー・ブロデリックとブリジット・フォンダ)が訪れる。理由は夫のからだの弱り方。はっきり申せばアソコが立たぬ。それの治療が面白い。また若き婦人が病弱で悲しむのをヒゲの若き医者が彼女のマタに手を突っ込んでひねくりまわす治療のいやらしさ。
かく申せばこの映画、アレが目的のゲス映画と思われそうだが、さにあらず、その時代色の美しさ、その登場者の時代衣装の美しさ。ボンネットに自転車にワルツにと、まるで西洋明治大正絵葉書を見るごとく、そのワイセツも江戸好色すごろくを遊ぶがごとく、この映画の時代美術の美しさに陶然となる。
何しろ主役の博士が名優アンソニー・ホプキンス、「羊たちの沈黙」「日の名残り」の主役。共演も「トーチソング・トリロジー」のマシュー。これに病院の乗っ取りをたくらむ若者に「グリフターズ」のジョン・キューザック。
それよりもこの映画の監督がアラン・パーカー。なぁるほどと唸る人は映画通。古くは「ダウンタウン物語」、やがて名作「フェーム」とあかぬけした映画いっぱいの名監督。オジサン族全員全裸で電気治療を受けての全裸のお尻のブルンブルン。これをアップ移動キャメラで見せるすさまじさ。その他オトコ、オンナの全裸にヒゲの男のフンドシ姿も続々。ウンコとカンチョウと男のあそこが立つ治療。映画美術の中に見るこのお遊び。見て見て笑いたまえ。ことし一番のケッサクよ!
(映画評論家)