淀川長治の銀幕旅行
「クロッシング・ガード」
この記事は産経新聞96年10月15日の夕刊に掲載されました。
題名は子供たちが学校帰りなどに自動車道路を横切るときのガイドの役をする人の意味。

映画はその道路で六歳の女の子を車でひき殺した男ジョン(デヴィッド・モース)が、6年の刑を受け出所したところから始まる。娘をひき殺されたフレディ(ジャック・ニコルソン)はその悲しみで生きがいを失っている。妻(アンジェリカ・ヒューストン)は死んだ娘の墓参りもしないで酒におぼれてとしかる。もう愛はさめたと泣く。彼はこの町の宝石商店のマスター。ところが童女をひき殺した男は童女の死の瞬間を自分の目に焼きつけているので、これが“罪”の意識で自分の両親に慰められても悩み苦しみ続けている。太ってずんぐりした善良型。

映画はこの罪を憎む娘の父と罪を犯した太った男、労働者ふうのこの男の“罰”が恐怖。非常にわかりいい映画。あたかも日本映画を思わせる行き届きすぎた演出の描写がときに、かかるアメリカ映画があるのかとこの日本の人情的映画を見て安心もし苦笑もしうれしくもなる。

ところで監督がショーン・ペンというところがまた面白い。最近のあの「デッドマン・ウォーキング」(95年)で死刑囚になるあの俳優の監督第2作。監督の1回目は「インディアン・ランナー」(91年)。監督も出演者も“映画”の染み込んだ連中。この映画で童女をひき殺した役の太った男も「インディアン・ランナー」、最近の「ザ・ロック」にも出ており、すべてこの映画はどっぷりと“映画仲間映画”。脚本もショーン・ペン(小説はデビッド・レイブ)、というわけでこの映画、“見てよくわかり、見て怖く、見て泣ける父と子、母と子、その子をひいた男”、この人物像の配置が型どおりのくせに見せ続ける。

主役の2人が抱いて泣くシーンがあるに違いないと楽しみにしていると、ちゃーんとそのシーンがラストに登場。こんなにもアメリカ映画に日本映画そっくりの映画があって、それが“良作”ゆえにうれしくひと安心。見て泣きたまえ。  (映画評論家)



淀川長治

クロッシング・ガード

監督・脚本
ショーン・ペン

製作
ショーン・ペン
デヴィッド・S・ハンバーガー

撮影
ヴィルモス・ジグモンド

音楽(主題歌):
ブルース・スプリングスティーン

出演
ジャック・ニコルソン
デヴィッド・モース
アンジェリカ・ヒューストン
ロビン・ライト
パイパー・ローリー
リチャード・ブラッドフォード
ロビー・ロバートソン
ジョン・サヴェージ
カリ・ウーラー
プリシラ・バーンズ
石橋 凌

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