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淀川長治の銀幕旅行
「奇跡の海」
この記事は産経新聞96年12月10日の夕刊に掲載されました。
この封切りはまだ早く、多分来春の2月ごろではないかと思うが、いち早くお知らせしたいし、改めて封切り近くに紹介を重ねたい。デンマークの1996年の作品。2時間38分、カラー。

映画のおもしろさは常に諸外国の作られたばかりの作品を日本でも見られることである。デンマークといえばサイレント映画初期、早くも日本に輸入され、名女優アスター・ニールゼンの「女ハムレット」や、または全く大衆的な連続映画の女主人公がオートバイで活躍するエムリー・サンノムの作品などがやってきていた。大正5(1916)年ごろすでに日本でもデンマーク映画ファンがいたのだったが、いつしか諸外国の映画製作に押されてその作品を見ることが少なくなった今、ここに1996年のデンマーク映画のこの“すごさ”、この“作品レベル”というものを知り、思わずあわてて紹介のペンを握った。

とにかくこのラース・フォン・トリアー監督および脚本の“たくみ”、これが目を見張った。一口に申すと、結婚したての夫婦、夫と妻とベッドのむつみ。全裸の新妻が夫の裸身の下半身に手を差し込む。かくて2人の新婚愛欲がうかがわれるが、この夫、仕事の事故で下半身不随となった。もはやセックスレス。この夫をいたわり、妻は教会に日参して夫の回復を祈る。ところが夫は妻に命じ、われと思ってあらゆる男性にお前は肉体を与えてくれ、その男、その相手がお前の肉体に喜びうめくとき、それが私、そのうめきが私だと思ってくれ、セックスレスの私はそれで自分の悲しみを救う。このようなストーリー。

女は夫の願いをこめ、あらゆる見ず知らずの男を追い求めた。この映画の愛の極限に「嵐ヶ丘」「ピーター・イヴェットソン」を思い重ねるが、同時にこの映画のエロティック、その野性、そのむき出しの情感に、デンマーク映画の今日の作品を知る。この一作でデンマーク映画をしのぶわけにはゆくまいが、ブニュエル映画を思わせるこのハードな人間愛欲探求は、厳しくも美しい。  (映画評論家)

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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

奇跡の海

監督・脚本
ラース・フォン・トリアー

製作総指揮
ラース・ヨーンソン

音楽総指揮
レイ・ウィリアムズ

音楽プロデューサー
マーク・ウォーリック

撮影
ロビー・ミュラー

編集
アンダース・レフン

視覚効果
マニプレーション

出演
エミリー・ワトソン
ステラン・スカルスゲールド
カトリン・カートリッジ
ジャン・マルク・バール
エイドリアン・ローリンズ
ジョナサン・ハケット
サンドラ・ヴォー
ウド・キアー
ミケル・ゴープ
ローフ・ラガス
フィル・マッコール
サラ・グジョン