「バードケージ」
この記事は産経新聞96年10月22日の夕刊に掲載されました。
バードケージ(鳥かご)とはクラブの名。経営者そしてショウの演出家アーマンド(ロビン・ウィリアムズ)はここのスタアのアルバート(ネイサン・レイン)と夫婦生活の仲。夫婦生活といってもアルバートはれっきとした男。楽しく平和のうちに、この夫であるアーマンドがむかし一夜、女と結んで男の子をもうけたその子を、この男夫婦は育てている。
ゲイのアルバートは自分の子のように、自分が母のように、この今は年頃のヴァル(ダン・ファターマン)をかわいがっている。ところがこの息子に彼女ができた。その父親(ジーン・ハックマン)母親(ダイアン・ウィースト)が娘の彼氏の両親にごあいさつに来るというので大あわて。父親というのが道徳強化協議会の副会長。
ご存じフランス映画「Mr.レディ・Mr.マダム」、さらに舞台でのジャン・ポワレのヒット作の映画化。12年前ニューヨークでこれを見たが、面白く2晩続けて見てしまった。ロングランの大ヒット。これを見なきゃ話にならんという大当たり。
これが、いまマイク・ニコルズ監督で映画化。この映画企画、ひねりにひねった。「ミセス・ダウト」(93年)で女ぶりを見事に見せたロビンに男夫婦の“男”役。笑って笑って笑い転げるこの男の妻たる“男”を舞台上がりのネイサン。かくて監督が深刻派エリート派の「バージニア・ウルフなんかこわくない」(66年)のマイク・ニコルズ。
やっぱりこの映画のプロデューサー、ガラリとファンの予想をひっくりかえしたものの、ニコルズに愛きょう不足。堅い。けれどニューヨークの舞台の大当たり、男と男の夫婦生活。当世これがモテモテか、劇場は紳士いっぱい、これが笑い転げ、ニューヨークの今の“実態”をこの目で見た気がした注目の芝居。その映画を今ここに!
(映画評論家)