「愛のめぐりあい」恋のざれ言、肉の戯れ、この西洋人の
恋のエネルギー!この映画気取り!
この記事は産経新聞96年7月23日の夕刊に掲載されました。
「情事」「欲望」のミケランジェロ・アントニオーニ監督作品(1995)。スッポンポン丸出しで検閲に引っ掛かる。見たが、もしこれをどれもこれもぼかしたらバケモノ映画。フランス映画で見える見えると喜ぶのは、フランス映画筋の客じゃない。ニッポンのどっかのカタブツ気取りか。
さてこの映画、気取りに気取った。私の大嫌いなヴィム・ヴェンダース監督が共同監督と知って覚悟を決めた。この男ほどキザ野郎はいない。彼の手にかかると芸術か、と彼に呑まれる。映画界きってのクセモノだ。その彼と善人アントニオーニの合体。いったいどんなものかとマユツバもの。
ところが気取ったよ、やっぱり気取った。第1話「ありえない恋の物語」、第2話「女と犯罪」、第3話「私を探さないで」、第四話「死んだ瞬間」、この各パートの何たるキザな題名。それに、この映画に登場する映画監督(ジョン・マルコヴィッチ)が、私は映画監督です、いま映画を完成させるのに疲れきっているのですとヒコーキの中からそう独り言を言っているところから始まるあたり、フェリーニの「8・1/2」のまねみたい。
やがて面白く巧みに皮肉に欲情的に4編の挿話が語られてゆくあたり、映画ファンはむずむずする楽しさ。言うならば完ペキの映画遊び、映画の戯れ。各挿話、新人がずらりと並び、そこにヒョコリとマルチェロ・マストロヤンニとジャンヌ・モローを出させ、この2人何やらひとこと人間テツガクを語る。もうもう辛抱たまらぬ映画気取りの最高。
イタリア、パリ、南フランス、各地が見られるが、その楽しみよりも西洋人のセックスへのお元気さが面白く無邪気に胸に染みる。この映画、そのスッポンポンをギザギザで削ったりカットしたりすると死んじまう。最近最もフランスらしい最もさわやか最もイヤラシイ、まさにフランス映画。ヴェンダースが共同の1995年作、伊仏独合作1時間50分。
撮影アルフィオ・コンティーニとロビー・ミュラー。キャメラ、美しい。
(映画評論家)