「12モンキーズ」カボチャにナスビがなった!?
この記事は産経新聞96年6月4日の夕刊に掲載されました。
私のお好みのテリー・ギリアム監督のアメリカ映画、1995年カラー、2時間10分。この監督(今年56歳)、「バンデットQ」(81)「未来世紀ブラジル」(85)は映画美術。ドイツのフリッツ・ラング監督に伸びるやと楽しんだ。
かくて今、この監督のこの「十二匹の猿」というまったくわけのわからぬ迷作に接し、酒飲みすでに酒に溺れしやの感じ。
12匹の猿という悪党団が地球人間を皆殺し。この映画、まずそのハッタリに胸くそが悪くなった。何がモンキーか、何が12匹か。まずこのハッタリで客を感心させんとする。時代も自由。未来か今か過去なりや。その中を囚人(ブルース・ウィリス)と精神科医の指名で何やらわけのわからぬ男(ブラッド・ピット)が12匹の猿のなぞにぶつかってゆく。
いったい何が“猿”なのか、何が“十二”なるや。最後までわかりませぬよ。「バンデットQ」であれほどの美しさを見せたこの監督のこの愚かしさ。
ここに登場するのが、今や売れっ子のブルース・ウィリス。まことファンのお望みどおり全裸に近い裸身で活躍。この男、シュワルツェネッガーと違ってその肉体のぶくぶくふくれたセクシーぶりが呼びもの。たんまりと今回はそれをお見せする。
問題はジェームス・ディーンの二代目をねらうがごときブラッド・ピットだ。役が精神病院の患者なのか医者なのか、とにかくありったけのオーバー・アクト。この男、ワン・シーンとて共演者のブルース・ウィリスに負けじとばかりのはみだし熱演。アメリカ映画で私の最悪の男オリバー・ストーンとともに、今ここに最悪の若者としてブラッドを加える悲しさ。なぜいつも、どのスナップを見ても、ディーンのイミテーションの表情をするのか、このばかみたいな個性づくり。
とにかく、裸男と狂的青年とテリー・ギリアム。かかる作品ごのみをもって隅から隅まで覚悟をもってご覧あれ。今年の珍作第一級。この肉のかたまりの坊主頭と、電気カミソリが化けたごときギョロ目の若造の共演。入場料を払う価値はありますぞ。
(映画評論家)