「スピーシーズ 種の起源」
この記事は産経新聞95年11月21日の夕刊に掲載されました。
かかる三流映画をライオンがほえるマークのアメリカ第一級映画会社のM・G・Mが作る世の中になった。
女の子が四方八方ガラス張りの中で毒ガスの煙を吹き込まれ苦しみ暴れている。このファースト・シーンからどうなるかというオハナシ。筋をしゃべっちゃ申し訳ない。要するに怖いタマゴを増やす精液を注ぎ込むメスが宇宙から地球に来て、この宇宙のメスが美女(ナターシャ・ヘンストリッジ)となって男を求める。
SFファンはこの映画のとっぴなアイデアを楽しむがよい。
しかしM・G・Mは、近ごろのごとくむやみやたらとSFばやりでは商売にならぬと知ってか、子供たちにはSFで楽しませ、大人たち、特にSF好きの男たちにはびっくりのエロティックで売るハラが見え見え。しかれどもこのエロの方が実はすばらしき見もので、男たちも、実はご婦人たちもこの映画をもう一度見たくなるであろう。
子供はSFで満足。かくて大人の男女はこのシルと称するタネとり女が男を誘うそのシーン。実はこれこそがこの映画のいやらしき狙い。女は遠慮もなくパーティーの中から男を誘い出し、別室でみるみる全裸。男はたちまちズボンを落とす。この男のだらしなさの最高映画。これはSF映画と同じくSEX映画。しかれどもさすがM・G・M、きわどさの一歩手前でこのSEXスリルをとどめるあたり、安心してジャリ連れのママもごらんにゆける。
出演者がいかめしい。「シンドラーのリスト」のベン・キングズレー。「テルマ&ルイーズ」のマイケル・マドセン。それに私のごひいき「スモーク」のフォレスト・ウィテカー。かくて注目のタネとり女、これが新人のモデル上がりの美女、カナダ生まれのナターシャ・ヘンストリッジ。
ところで実はここが悲しくうれしく面白い。というのはこの怪女、タネをいただく相手の男を殺すのだ。カマキリ女。監督は「追いつめられて」のロジャー・ドナルドソン。「スピーシーズ」とは「種」のもとの意味。
(映画評論家)