「パリのランデブー」
この記事は産経新聞95年11月07日の夕刊に掲載されました。
エリック・ロメール監督。75歳。この映画のこの若さ。「海辺のポーリーヌ」(83)ファースト・シーンのフランスの香り。「木と市長と文化会館」(92)このユーモア。クレールとシャブロールを染めたロメール。
今、この監督の「パリのランデブー」(94)に久しぶり本物のフランス映画の香りをかいだ。いかめしがらず笑い落とさず、ここに見るパリ・シュークリーム。3話にわたってのロメールのパリ・シャンソン。ただしこのパリ案内、みどりの木陰、秋のベンチ、すべてすがすがしくやさしくおかしく、ちらと悲しき、パリの青春スケッチ3枚。脚本もロメール。
第一話「七時のランデブー」。若い男女が夜の七時に「ダム・タルティーヌ」で会う話。この「パン切れ」という名のカフェー、そのパリ。この一話だけで一本の映画が生まれよう。
第二話「パリのベンチ」。秋、恋人同士がベンチでささやいている。きれいな秋のベンチが次々と、それに墓地のベンチまで、9月の末から10月11月、公園から公園の、11月25日のオートゥイユ庭園のベンチまで、次々とベンチの変わるこの若い2人のそれからがどう変わってしまったか。
かくて第三話は「母と子、1907年」。はて何が出るかどのような男女ばなしか、とにかくここでは「母と子、1907年」と題されたピカソの絵、この場所ピカソ美術館。すべてパリの若者ごのみの名所案内。
ロメール、この若くもないフランス人の無邪気さがパリを見せて、パリを香らせて、それも昼間の明るいパリ、若い若い男女のランデブー。見つめていると、パリのシュークリーム。このパリ製の舌触り。
見事このフランス映画、じっくり見てじっくり酔って楽しんで、そしてつくづくと娘をひとりでパリにやるでないぞとドキッとさせる。若者の女の口説き方、これぞ芸術。ところがこれを受けて、娘の男の口説きのさばき方の何たるうまさ。パリは生まれる男女の「種」に早くも恋の手くだを染めたか。
(映画評論家)