「プレタポルテ」
この記事は産経新聞95年05月16日の夕刊に掲載されました。
皮肉で婀娜(あだ)っぽい。「女」を骨のズイまでしみこますが、その中に「ゲイ」趣味が羽ばたく。古きセシル・B・デミル、「甘い生活」のころのフェリーニ、この両種をカクテルしたアメリカ映画カラー、1994年作、2時間13分。
はじめに豪華なクリスチャン・ディオールの店でネクタイを求める紳士、しかも同じネクタイ2本。この男店から出るやここはロシアなのだった。
はじめっから見る者をかつぐこの脚本。やがてアヌーク・エーメ、ミシェル・ブラン、ジャン・ロシュフォールと総勢30名あまりのスタアの登場。しかもその顔触れ、この監督の〈おこのみ〉べったり。「アタメ」の鼻のとんがったロッシ・デ・パルマ、それに「クライング・ゲーム」のはじめでセクシィ・ムードあふれさせた黒人俳優フォレスト・ウィテカー。それもこの男、ゲイのデザイナーと抱き合ってべったりキッス。
さて見どころのパリのファッション・ショーの美しさ、あたかも満開の桜の下に立つがごと、そのモデルの美しさその衣装の美しさ、ここで言うまいとペンをパチリと止めたのだが、思わずペンが走り出すこのショー、やがてオール・モデルがスッポンポンと全裸で現れ、いかなる衣装もこれには敵(かな)うまいという皮肉。さらにラストは赤ちゃんヌードで締めくくる憎らしさ。
さて数えきれぬスタア総動員それぞれが役どころを見せて演技を示すその中で、ソフィア・ローレンとマストロヤンニ、この2人はちらりとしんみりとした懐かしい映画の一瞬を演じさせ、さらに笑わせもするこの脚本。ワヤワヤガヤガヤと監督をとりまいて数人の協力脚本に違いない。
車の中での中年男の急死。2本のネクタイ。映画は探偵趣味、加えて艶もの趣味をたっぷりと見せながら、このアルトマンのお遊び映画、しみじみとまさに久しぶりの大人の映画、久しぶりの感覚の贅沢三昧(ぜいたくざんまい)にひたれるこの映画、うれしいお楽しみ。ガン・プレイから遠く離れて、のびのびと、楽しみましょう。
(映画評論家)