「若草物語」すみれの花を抱えて
この記事は産経新聞95年06月06日の夕刊に掲載されました。
いまどきオルコットのクラシックとばかにすまい。このオルコットの自伝(二女ジョーの役)は3度すでに映画化。
1919年(日本未封切)、1933年(RKO映画、ジョージ・キューカー監督、二女はキャサリン・ヘップバーン)、1949年(MGM映画、マーヴィン・ルロイ監督、二女ジューン・アリスン)。いまどきに…そう思うところに注目。
アメリカ映画は「妹の恋人」「シザーハンズ」、そして「フォレスト・ガンプ」「ノーバディーズ・フール」とエレガント、スウィート、グッド・ヒューマンと今にいたって目のいろ変えて追いだした。いま一度、アメリカその善良な移民時代に目覚めようとするのか。オリバー・ストーン、そしてスピルバーグのあの画面いっぱいの押しつけが気になりだしたか。
さてルイザ・メイ・オルコットの1869年発表のこの古き姉妹物語。時はアメリカの南北戦争時代。やさしい母と四人姉妹。父は戦争で戦場へ。
この物語はマサチューセッツ州コンコードの16歳、15歳、13歳、12歳の19世紀半ばの四姉妹物語。日本の「細雪」ならぬ春の目覚めその一歩手前の「春雪物語」というべきこのやさしさ。その原作は愛されて世界中の家庭に愛読され、映画もこれで4度。その3本を今に見て、やっぱりキャサリン・ヘップバーンのジョーが最高。今度は「エイジ・オブ・イノセンス」その他ですでに知られたウィノナ・ライダーの二女のジョー。母がスーザン・サランドン。
さてその他の姉妹、そして彼女たちのあこがれの男性たち、この顔触れがこれまで映画化されてきたにぎやかな人気スタアの顔触れと比べ、二女を目立たすためか姉妹は新人揃い。映画の面白さはこの姉妹俳優の腕比べ。それが今回は弱い。
監督が「わが青春の輝き」のジリアン・アームストロング女史。演出のアクセントが弱い。美しくやさしくに心を使いすぎた。すみれの花の絵はがきそのままのこのきれいごと。しかしそれでいい。久しぶりに一家おそろいでご安心してご覧になるといい。1994年アメリカ映画。カラー。1時間58分。
(映画評論家)