「レオン」リュック・ベッソン監督、このいきなタッチ
この記事は産経新聞95年03月07日の夕刊に掲載されました。
フランス映画のゴーモンのマークが出たのでフランスのギャングものかと思ったところ、ニューヨークのイタリア人の住むリトル・イタリー。会話はすべて英語。宣伝ちらしを見ると、12歳のマチルダ(ナタリー・ポートマン)と老いぼれに近い殺し屋(ジャン・レノ)のラヴ・ストーリーみたい。50歳と13歳くらいなら歌舞伎なら「お半長右衛門」、西洋なら五十すぎの男が少女をセックスの相手にと狙う「ロリータ」。いずれにしてもネタはたいしたことはない。
少女の父親がギャングの手下だったのだが、麻薬をすこしちょろまかしたのでその父と一家みな殺し。この少女の父が射たれて殺されが、この父のマスクがいいので、ああもう死んだかと口惜しくなる。
少女は逃げて同じ屋根の下の殺し屋レオン(ジャン・レノ)の部屋に逃げこみ、この殺しの名人に殺しの手ほどきを受ける。かくてここに少女とおとなの友情。かすかなる恋情さえもが感じとれ、これがチャップリンの「キッド」やウォーレス・ビアリィの「チャンプ」を思い出させもするのだが、カタキをとった少女、しかしレオンは死んだ。
かくて少女の涙でしめくくるか。そうはすまい。なるほど、この少女スパスパとタバコも喫うし、カタキの汚職捜査官をも殺す。そして映画は、恩人のレオンが小さな植木の鉢の一本の草をこよなく愛し毎日心して陽に当てていたそれを、少女は学校に戻って校庭に植えるところで終わる。
ここまで話しては見る人に不親切だが、この映画、それまでの道中がワンシーンワンシーンすべてうまい。「パルプ・フィクション」に迫るくらい。
この監督、脚本リュック・ベッソン。パリ生まれのフランス人だからギャング・スタイルもいきだ。それにレオンをやるジャン・レノが渋い。渋いくせにいろけがある。フランスはいい俳優にめぐまれている。当年13歳のナタリー・ポートマンが12歳娘を演じるがフランスだ。おいろけが早くもにおう。
おおげさでなくこりゃリュック・ベッソン、そして主役の2人、ようく見せてくれましたよ。楽しかった。1994年アメリカ映画、カラー1時間51分。
(映画評論家)