「フレッシュ」12歳でドラッグ・ディーラーをやる少年
この記事は産経新聞95年02月14日の夕刊に掲載されました。
小学生。姉と彼の2人きり。母はいない。父は公園で賭けチェスで暮らし、宿なし暮らし。少年は伯母のやっかいになっているが、すでに8人のいとこたちが伯母の家にやっかいになっている。
少年は伯母、父、姉を助けるため「金」をためることに必死。それで麻薬取引の手伝いをし、ボスから金をもらい、自分のもうけも巧みにこさえて、その金は公園の林の土の下にかくす。
姉はボスのため麻薬中毒。学校の友達も麻薬売買の小僧になりたがったが、ボスの仲間に銃殺。少年の愛した少女も殺される。
少年は公園の父にさびしくなって会いにゆき、父からチェスの王(キング)をしとめるには他のコマを利用し、利用のあとは未練なく捨てろと教えられる。後半は、この少年が大人たち、ボスたちに復讐(ふくしゅう)してゆく。この後半が少々作りものになって臭くなる。
前半はハーレム黒人街のドキュメント。そのキャメラ、その演出が遠くキング・ヴィダア監督のオール黒人ドラマ「ハレルヤ」を思わせ、タッチはエリア・カザン、ジュール・ダッシン、ジョン・カサヴェテスの系列だ。
監督はシナリオ・ライター上がりのボアズ・イェーキン。これが監督第一作。プロデューサーが二人。その一人が「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」のローレンス・ベンダー。撮影が「真夜中のカーボーイ」のアダム・ホレンダー。
少年のショーン・ネルソン(13歳)は舞台の少年俳優。ボスの一人が「ナイト・オン・ザ・プラネット」のジャンカルロ・エスポジート。姉に扮(ふん)した、ブッシュ・ライトは、アルビン・エイリー舞踊団のメムバア。すべてに黒人芸術劇団の匂いがする。
コッポラの「コットン・クラブ」、スピルバーグの「カラー・パープル」、これらのエレガントはない。黒人の泥だらけの美術画だ。
このアメリカの苦痛の影を描いたこの作品は、黒人映画の代表者としていつまでもアメリカ史に残るだろう。1994年作。1時間55分。
(映画評論家)