「フォレスト・ガンプ/一期一会」
この記事は産経新聞95年01月10日の夕刊に掲載されました。
1994年アメリカ(パラマウント)映画。2時間22分。この長さ、いささかも飽きさせない。
原作は86年に書かれたアメリカ人ウィンストン・グルームの小説。ひとくちこのストーリーを聞けば、頭にくるほどうんざりだ。まさしく成功物語。それも足の悪い子供がのちにはアメリカのヒーローとなるアメリカの夢。
しかしこの映画、そのあまさをいかに料理したことか。その見事さは商人の腕を超え“芸術”に迫る。
生まれたときから足の弱い子、それに背中の骨も少し曲がって、それにまたそのためか頭が少し弱い。このハンディキャップがこの子(フォレスト・ガンプ)この青年をアメリカの英雄に育ててゆく。しかもこの青年は有名などの意欲なく、ただもう懐かしげに自分の過去をバスの乗り場のベンチで隣り合わせた見知らぬ人にひとり語り。相手もウンともスウとも返事なくバスで去ってゆく。それでもまだこの男はひとり語りを続けてゆく。
このファースト・シーンに一枚の白い鳥の羽根が空から舞い降りてくる。ラストのこの映画の終わるころ、まだひとりベンチに腰掛けているこの男の足元に一枚の羽根はからむよう舞い降りて映画は終わる。サイレント末期のファースト・ナショナル映画を今ここに思い出すオールド・ファンもあろう。アメリカ映画がその古き昔を求め、その懐かしさ美しさにすがっていることがわかる。あの「我が道を往く」のように、最もアメリカ映画が美しかったころ。
さてこの映画の監督は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス。主演は「フィラデルフィア」で九四年にオスカーをつかんだトム・ハンクス。今度の主役ぶりも立派。さて二度重ねてオスカーを取るかどうか。母をやるのが懐かしいサリー・フィールド。
いじけた児童がかくも立派な人生を積む。そのことで涙を流させるであろうが、本人の善行、その善人性があらゆる不幸を乗り越える、その性格がうれしく頼もしい。戦友を救い、両足を失った戦友に勇気を与え、自分自身もその足を持って走り続けたランナーの姿。見て勇気を持とう。信念をつかもう。愛に生きよう。
(映画評論家)