ファザーファッカー
この記事は産経新聞95年05月30日の夕刊に掲載されました。
荒戸源次郎監督第一作(49歳)。1995年作カラー、九十分。久しぶりで大人の日本映画。原作(内田春菊の小説)映画化企画(秋山道男)この彼自身の主役。「ファザーファッカー」とはイロケジジイのオヤジ。映画でこの人物を演じる秋山がニンにはまったうまさを見せ、妻の桃井かおりがずば抜けてうまい。
汚い貧しい家に男(秋山道男)が威張りくさって婿にくる。大型冷蔵庫が持ち込まれる、この男の自慢。娘静子(14)妹(10)。わがままで気取りいっぱいの亭主、長女(中村麻美)に手をつける。母(桃井かおり)、何度目(?)かの夫か知らぬが娘に手をつけたのもオトコってそんなもんと実の娘に言う。娘、学生同士の少年の子を宿す。流して男だったか女だったかと聞く、母と二人で。かかるストーリーにはテネシー・ウィリアムズを思わせアメリカの南部農村を思わせもするが、これは都会近い日本の郊外みたい。
さて見とれきった。プロデューサーだった監督第一作。そう構えたか、気取ってアマイアマイ。恥ずかしくなる。しかし日本映画、この近辺にも近づいていない現在、この第一回監督作に声援したい。
エントツまがいの太い長いセメントのハシラ。ひとめで男性器と知る。わかったよと思うのに、これが何回画面に出ることか。主人公少女アマッタレの14歳の制服姿。これが電車か何かの線路のレールの上をちらと歩いてみたり、便所の窓からビー玉を投げ、ビー玉がカワラ屋根からコロンコロンと落ちるそのあまさ。あまったれなさんなよと言いたい。
けれど第一作だ、もっと愛したい。桃井かおりをグーンとほめたいよ。娘の前で米を研ぎ、シャツや下着の洗濯をしているこの母の演技に見つめる。養父を演じたケチで助平で娘に手を出すバカ男、これがこの映画の原作の題名。映画もそう。そしてこの父を演じた秋山道男がこの映画の企画者。だからのっている。
ところで夢の場面が画面に出るがバカらしい。もっとリアルに人間の肌のくさみが出ぬものか。画面の左のくさったエントツみたいな、これ、いっぺん出せばいいものを何回出したか、最後にバッチャンコ倒れた。もう、ついに立たなくなったみたい。子供っぽい。けれどこの監督に愛をこめてペンを置く。
(映画評論家)