「ブレイブハート」
この記事は産経新聞95年08月22日の夕刊に掲載されました。
封切りは10月になりそうだが、面白いから早くお知らせしよう。監督・主演メル・ギブソン(39歳)、このところ監督主演が多い。アメリカはプロデューサー天下なので俳優がウズウズして自分でやっちまう傾向がある。
スコットランドの13世紀のころだ。日本ならカマクラ時代か。日本ならヨロイカブトも風情があったころだが、この時代のスコットランドの野蛮合戦は目にあまる。それをまた映画の見ものにした。
10年間の戦争また戦争。この時代おどろくなかれ、一般民の結婚の初夜をまず貴族が取り上げてからでないと結婚できない。イングランドがスコットランドの貴族を支配したころだ。イングランドの侵略で家族を皆殺しにされたウォレス(メル・ギブソン)の復讐(ふくしゅう)奇談。イギリスのケネス・ブラナーの「ヘンリー五世」もあの戦いのクラシックが見ものだったが、これはもはやクラシックを踏みつぶす野蛮。
群がる兵士がはるか一線に並び、そのすべての男が敵に向かっていわゆるキルトと呼ぶスコットランド兵のスカートをめくって白い尻(しり)を向けた。これは映画でも初めてだ。これでスコットランドのキルトのスカートの中はパンツなしがはっきりとわかったよ。
何百人もの兵士が空に向かって矢を放つ。これがこちらの軍隊の頭上に雨さながらに急降下する。これを楯で防ぐ。これも凄(すご)いが、反逆者ウォレス、ついに捕らえられ極刑を受ける。この処刑の凄さ。思わず石川ゴエモンの釜茹でを思うがもっと凄い。
というふうなことをここに記したのは、近ごろのアメリカ映画の金もうけ主義、それとトリック一点張りのあのドライさ、このスピルバーグ・スタイルが目にあまり胸くそ悪い。かかるときにこの「ブレイブハート」は“映画を忘れるな”と叫んでいる。
とにかく「マーヴェリック」のあのメル・ギブソンがと思わせるこの大時代劇戦争野蛮一大合戦に映画を見よとの意気をみた。
1995年作アメリカ映画。相手役はソフィー・マルソー。
(映画評論家)