「雲の中で散歩」
この記事は産経新聞95年05月09日の夕刊に掲載されました。
中年ファンはイタリア映画「雲の中の散歩」(1942)日本封切り1951年、アレッサンドロ・ベラゼッティ監督作品を思い出されるであろう。その再映画化。今度は「赤い薔薇ソースの伝説」のアルフォンソ・アラウ監督。1995年アメリカでこの8月封切りの新作。
第一の魅力は「スピード」のキアヌ・リーブス(30)、次は助演にアンソニー・クイン(80)、そして「流されて…」「イノセント」などのセクシィ中年男ジャンカルロ・ジャンニーニの共演。
ところで今回の「雲の中で散歩」とは、第二次大戦の兵隊がえりのキアヌが家に帰ると、妻が冷たくすぐにもチョコレート会社のセールスに戻れと言う。キアヌ怒ってサクラメント行きのバスに乗る。会社のある所だ。そのバスの中で泣きぬれている女ビクトリア(アイタナ・サンチェス=ギヨン)を見て、彼女が男に捨てられしかも妊娠。厳しい父のいる家には帰れぬと泣きだし、キアヌ、ついに名前だけの夫となってやる。
田舎の貧しい娘と思ったその娘の家は見はるかすブドウ農園。その名「雲」農園。「赤い薔薇ソースの伝説」の監督はどこかクラシック、どこか明治大正の絵物語ふうの味。今度も親父はカンスケ、祖父はキアヌが手提げに入れていた商品のチョコレートに夢中、母も祖母もまるっきりのお人よし。仮の夫婦とにらんだが、父は二人をベッドに寝かせ、外から様子を探る。
ここで監督と脚本はキアヌの濡れ場を見せんとたくらみ、さらに最高はこのブドウ園、霜が降りると主人はじめ何十人もの使用人が火をたき、その熱を全員が両手に白布の、あたかも蝶の羽根そっくりのそれをつけ熱を送る。その美しさ。さらにクライマックスは、かの白布をつけて両腕動かすキアヌのわきの下の毛がまる見え。貴重なる珍景。
かくてブドウ実り、大樽に山盛りのブドウ放りこみ、男女が足をめくって踏みまくる豪華なメキシコのブドウ祭り風景。いかにもこの監督のこのみ満点のお楽しみ。そしてキアヌのこのかわいらしさ!
(映画評論家)