「アポロ13」
この記事は産経新聞95年07月04日の夕刊に掲載されました。
もちろん実際にあったその映画化。アメリカ・ユニヴァーサル映画1995年作、2時間21分。カラー。
「コクーン」のロン・ハワード監督。「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクス、「告発」のケビン・ベーコン、「トゥルー・ライズ」のビル・パクストンの3名が飛行士。なにしろ実話なので脚色の手は加えられない。現にこの3名のうち2名が67歳と61歳で今も健在。映画はアポロ13号をそのまま再現するしかない。そしてそれがこの映画いちばんの魅力。
この手に全く興味のない人はラスト近くの20分に迫るまではぐっすり眠るであろう。それを心配してか、この映画はかかる人たちのために主役3名のぎりぎり一杯のクローズアップをキャメラ(ディーン・カンディ)で何度もとらえ、この顔が眠気覚ましになるどころか、3名の鼻の穴から鼻の下のヒゲから顔中手でさわれる思いで見られる。トム・ハンクスの鼻の下のヒゲが目の前というこうふんと恐怖。
映画のお楽しみはもちろんこの3人無事帰還のラスト20分。ここが見どころ。ぐっすり眠った人もここで椅子に座りなおすにちがいない。
アポロ号は1969年、月に下りた。せっかくの月の美しさが砂だらけの地面と知ってがっくり。これに、性懲りもなくまた1970年4月11日はアポロ13号の名をもって打ち上げられ、月に迫ったぎりぎりのところで失敗。ここからが映画の本舞台。地上に生きる私ら人間の知らざるあらゆる空の恐怖が盛り上がり、かくてやっと地上、その海面にパラシュートで、というそのあたりまで呼吸が止まるこうふん。
この月世界突入映画は、早くも1902年フランスが「月世界旅行」のトリック映画で見せている。映画というそもそもの発明が、一番見せて面白く、一番見せて実感を盛り上げうるものこそ宇宙ロケットと考えたか。とにかく、今度の映画は活動写真こそ第一の魅力、それを今もって誇らかに示したアメリカ映画とこそ見たい。
(映画評論家)