「エンジェルス」笑いで吹っとばす野球珍プレイ映画
この記事は産経新聞95年04月25日の夕刊に掲載されました。
アメリカ映画は野球と拳闘を描くと実にうまい。中でも野球となると「男」まるごと画面いっぱい、その元気さが楽しさあふれさせる。ゲイリー・クーパーの「打撃王」(42)はアメリカ映画最高の美しく涙ぐましいマジ中のマジの野球映画であったが、その他はほとんど楽しさ愉快さがらの悪さを加えて、中には奇跡までが起こってバットにピッチャーの投げるボールすべて吸いつく映画もあった。
さて今回は、その名もエンジェルス球団なるチームの試合の奇跡。話は母なき11歳の少年(ジョセフ・ゴードン・レビット)が父からも捨てられ、その父は地元のエンジェルス球団が勝てば戻ってくるとその子を捨てた。泣いてその子は神に祈った。星が一個、ピカーッと光った。
それからのこの球団の珍プレイ。超スピードで空から天使が飛びこんで選手の味方。というストーリーには驚かないが、その球団の面々の選手と監督の名演、加えて天使の名演、加えて観客それにホットドッグ売りのなか売り、そのすべてがうまいし面白い。
ウィリアム・ディア監督は脚本家上がりの新人。この1時間42分、笑わせて全くたるまぬ腕を認めたいが、この映画、ディズニー・ピクチャーの提供、それでクリストファー・ロイド、ダニー・グローバー、ブレンダ・フリッカー、さらに、おお何と少し老けましたがベン・ジョンソンをも加えての好スタッフの上に、実にかわいいその脚本のタッチがほれぼれと見とれさせる。
しかし…。アメリカ映画が何故にかくも野球映画をこのようにしばしば作るかのその本心を暴いたならば、「男」を見せてこれくらい健康セクシィは他に見当たらぬその狙い。男のマタのあいだで指2本のキャッチャーのサイン。控え場で選手たちのリラックス半裸体。ここでは小型のふろまであって、それに大男、全裸で、という具合で本当は「男」のピチピチ体格がプンプン。
ママたちは子供をだしに、かかる映画を堂々と見にゆける。しかし日本ではこのような映画こそが見せるアメリカ人の生き方だ。
(映画評論家)