「トゥルーライズ」映画エネルギー爆発の大活劇!
この記事は産経新聞94年08月23日の夕刊に掲載されました。
もう筋肉リュウリュウのシュワちゃんじゃない。サイレント映画の一大連続活劇スタアのシュワルツェネッガーだ。
見ると、“007”のボンドも気取っていた。表向きはコンピューター・セールスマンのハリー。妻は出張の多いこの夫に不満のその名ヘレン(ジェイミー・リー・カーティス)。このヘレンを誘惑の男サイモン(ビル・パクストン)。やがてハリーの妻、さらに14歳の娘デイナ(エリザ・ダシュク)までにも魔の手がしのびこむ。
よく宣伝マンが五分ごとに恐怖のスリルとうそぶくが、これはまさにそのエネルギーを脚本に、監督に、撮影に満ちあふらせて、今を去る七十三年前のサイレント連続活劇を今ここに鮮やかに華麗登場のスタイルで見せましたぞ。
夫の名がハリー、妻の名がヘレン、笑わしちゃいけないよ、まったくの連続大活劇の登場人物そっくりの名じゃないの。
ところが笑っちゃおられない。シュワちゃんの一大活躍は当然のことながら、ここに妻の浮気。かくて、やがていろいろあって彼女は衣服脱ぎ捨てエロダンスを見せるとなるとビックリ仰天。しかも、彼女に対し怪しの悪女(ティア・カレル)が正面切って対決の女対女のスリル。夫は妻に秘密の一大仕事を隠し、妻は夫に隠れ浮気に走り、娘は親をだまし学校に行くふりしてサボっていたりで、この映画、すべて嘘かマコトか、その脚本の巧みに加え、悪女登場、その女と主役の妻、この女ふたりの対決、これがまた一大クラシック。
かくて妻やいかに。さらに娘やいかに。いかにいかにでその面白さ、その怖さ、これぞシュワちゃんがもともと見付けたフランスダネ。これを「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン監督が、その面白さ呑みこんでのこのタッチ。
さて、シュワちゃんの妻誘惑の男。シュワがひっとらえ首しめあげるやこの男、小便ジャージャー。またも一大夜会ホールでこの男、タキシード姿のまんまで再び小便ジャージャー。
さて、共演の顔触れに一大スタアのその名、チャールトン・ヘストン。いつどこに出るやらと思うやバッチリ、このヘストンの鼻の穴まで見える一大クローズアップ。しかもたったそれっきり。「しっかりやれ!」。その一言の電話の受話器を手にしたらしきその手も見えぬヘストン、画面いっぱいのその顔。
笑って、だまされた、かく思う間もなく「キキイッパツ、彼の運命や、いかに?」の今や生まれ新たな超モダン。このぜいたく、このエネルギーを楽しみたまえ。
1994年アメリカ映画、2時間21分。
(映画評論家)